低年齢歌手流行りである。
いや、低年齢といっても、もうみんな二十歳を超していたりするが、かつては高校生くらいの年齢でデビューする歌手、というジャンルのようなものがあった。特に女子。最近では「0930」、オクサマと読む。知ってますね、断らなくても。彼女たちももう卒業したとか、しないとか。まあ、どうでもいいのですが。
その、低年齢デビュー(正確には高校生デビューというのがいいのか?)の中ではもっとも目立たなかった、おそらくはほとんど誰も知らないであろう、しかしデビューはおそらく一番早かったのが、このロケット・オア・チリトリ(以下ロケチリ)。本名、柴原聡子。高校2年のときに雑誌「米国音楽」に作品を投稿、その曲数の余りの多さに編集部も驚き、しょうがないので付録CDに彼女の作品を5曲も収録。その、ラジカセ一発取りの(正確にはラジカセで多重録音もしていたらしいが)サウンドと、どう聴いてもヘタな演奏、ボーカルがなぜか反響を呼び、当時話題だったBeckと比較されたりしてずいぶんともてはやされていた。
一言でその魅力を表現すると、「原石の美しさ」とでも言おうか。いや、言っておくか。これはもう「磨けば光る」というものでは全くなく、磨いてもおそらく良くはならない。原石の形のおもしろさは意図しては作れないのだ。演奏がヘタ、というのはもう文字通
りヘタと言うことで、これは一昔前の「ヘタウマ」とは一線を画す。同じ宅録で作品を発表していたパラダイス・ガラージュやトモフスキーも、技術のある者がその技術を隠して表現しているため違う次元にあるし、同じラジカセ一発取りのギター・ウルフとも全く異なる。あくまでロケチリはそこまでの技術しかなく、サウンドプロダクションをより良くしようという意図もない。デモテープとして録音しているわけでもなく、あくまでそのアイディア一発取り作品はもう完成されたものなのだ。
おそらくは、これを読んでいただいている方がロケチリを聴くことはもはやないと思う。しかし、日本のある時期の音楽ファンは彼女の作品を聴くことで何かをあきらめ、そして次のステップへ向かったはずである。「この手の音楽はもうこれが最後だ」と。これは別
にネガティブな意味で言っているのではなく、彼女がそのジャンルの音楽を新しい次元へ導いたのだ。聴くものの意識も変えてしまった。ヘタなものがいいのでは決してない。年齢の低いアーティストだから、というのでもない。まして、ローファイ(まさしく本当の意味で低音質だ)だからもてはやされたわけでもない。彼女の演奏と曲が、ラジカセ録音のノイズの中で一体となり、私たちの何かを終わらせた。少なくとも私はそう思っている。
そのロケチリのアルバム「トーキョー・ヤング・ウィナー」収録の「テル・ミー」が今回の曲。本当に原曲の雰囲気が伝えられなくて残念。とりあえずこんなメロディだ、ということだけわかっていただきたい。
彼女はCDとEP盤を3枚発表した後、早稲田大学工学部建築科へ進学。入学祝いに初めてCD発売元から4チャンネルのテープデッキをプレゼントされたとか。しかし彼女の新しい作品は発表されていない、発表されるのを待ち望んでいるわけでもない。もう、終わったのだ。そういう種類の音楽もあるのだ。
でも、新しい作品が出ればもちろん買うけどね。
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