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text/慧厳  



1番
 

ぼくらは、20世紀という時代に構築された牢獄から
美を解放しなければならない。
自閉症患者、分裂病者、偏執狂者、糞尿嗜好者・・・、
一切の狂人たちの私有物となって弄ばされ続ける美を、
ぼくらは、ぼくらの手に奪還しなければならない。
閉塞的な制度としての美術を穿つとは、
ぼくらにとっては、そのようなものであるべきだ。
こうした言葉を吐露する者を、たんに「保守主義者」としか見なさない輩は、
すでにして制度に侵されていることを知らねばならない。
ぼくらにとって真に必要なのは「美術」ではない。
ぼくらにとって真に必要なものは「美意識」だ。
ぼくらにとっての美とは、そのようなものでなければならない。
なぜなら、ぼくらにとって美とは、
生きるためにどうしても必要なものとしてあるからだ。
身過ぎ世過ぎの生活の手段としてあるのではない。
また、空白の時間や空間を埋め合わせるためにあるのでもない。
そうした者どもがそうした者どもの必要のために美を汚すなら、
ぼくらはそれを見逃してはならない。
なぜなら、ぼくらの「生」を犯す者は「美」を犯す者であるのと同様に、
ぼくらの「美」を犯す者は「生」を犯す者であるからだ。
ぼくらは「見ること」を欲し、「聴くこと」を欲し、「語ること」を欲する。
なぜなら、それらすべてが、ぼくらの美に通じているからだ。
ぼくらは「物」と出会い、「音」と出会い、「言葉」と出会う。
ぼくらはそれらとの出会いすべてを、恐れてはならない。
それが、美を盲目の狂者どもの牢獄から解放する力だからだ。
この時代、狂者は強者として君臨することができる。
しかし、それらと戦う真に美しい弱者は、世界中に存在するのだ。
ぼくらは彼らと手を結ばなければならない。
そして、愚劣な狂人どもの手から、美を奪還しなければならない。
美が、ぼくらの生きるための力となるように。

                        〜20世紀最後の聖夜に〜

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