小学生なんだけど結構気の合う知人がいる。その子の母親が、あの子は猫と遊ぶのがとても上手だと言っていた。猫と遊ぶのに上手も下手もあるかと思われるかも知れないが、これが結構ある。
子どものとき家に20匹くらい猫がいた。長い紐をずるずる引きずって歩くだけで、最低でも5匹くらいは後について来るので「ハメルンの笛吹き」みたいに猫を何匹も従えて歩いたり走ったりして遊んでいた。しかしこれは特殊な例で、一匹の猫を猫じゃらし一本で思い切り遊ばせる場合は、もう少し繊細な技術が必要だ。
私の経験から得たポイントは「待ち」と「隠し」。猫が猫じゃらしを見て眼を輝かせても、すぐにばたばたと振ってはいけない。猫が頭を低くして突撃体勢を整え、お尻を振り振りウォーミングアップをする間、油断した「獲物」になったつもりでじっと待つ。猫がとうとう「獲物」めがけて突進してきたら、ぎりぎりのところでさっと避け、猫の見えないところに「獲物」を隠す。このときただ見えなくするのではなくて、どこに隠したか猫にわかるようにするのがポイント。あまり高速だと猫はついていけない。あくまで猫の獲物――ネズミのような4つ足の生き物――が走るくらいの速さで動かし、隠れるところを見せてやる。猫が見失っているようなら、猫じゃらしの先をちょっと出して、見つけられるようにしてやる。「隠れている獲物」に猫はやたらと狩猟欲をかき立てられるらしく、興奮のあまり毛を逆立てて飛びかかってくる。この「隠す→避ける→隠す」のくり返しで猫はどんどん盛り上がる。上手くタイミングを合わせると普段おとなしい猫でも結構飛んだりはねたりするので、ときどき猫じゃらしを縦に動かしたりしてみる。思い切りハイジャンプさせられた時は、死闘の末にマグロの一本釣りに成功したかのような快感だ。
猫と生活したことのなかった夫は最初「動かせば喜ぶんだろう」と無闇に猫じゃらしをばたばたさせ、猫を飽きさせてしまっていた。件の母親も「猫を見てタイミングをはかるのが上手なんですよね」と言っていたから、猫を一本釣りするには特に「待ち」の体得が不可欠なのだろう。
小学生にして「猫一本釣り師」の知人。猫飼い界ではかなりのエリートといえるだろうが、学校生活には馴染むことができなくて、結構苦労しているらしい。自分の来し方を振り返って考えても、この才能が人間社会で生きるのに全然役立たないのは明らかなのだ。がんばろうね、お互いに。
2008年9月8日号掲載 ▲