○暗所恐怖症であるのに、自分の手も見えない暗闇空間を作り出して、そこで視覚以外の四感を感じる装置の中を視覚障害者のアテンドで進むプロジェクトのお手伝いをしたことがある。
○このプロジェクトは、「Dialog in the Dark」(暗闇の中の対話)と呼ばれる、ドイツのハイネッケ博士が考案したシステム。日本では、このプロジェクトの存在を日経新聞で知った金井真介さんが、日本でもやりたいと強く願望され、これまでに5回実施された。今ではこのシステムの継続的実施を目指したNPO法人挌を持って活動をされておられる。
○その金井さんに乾正雄の『夜は暗くてはいけないか―暗さの文化論―』(1998年、朝日新聞社)という本を紹介した。早速読んでいただいたようだ。
○その本の冒頭に確かブリューゲルの絵が紹介されていて、西洋の光と影が織り成す陰影の世界と、「暗さ」が人に思考をもたらすのではないかという面白い論を展開している。
○その狩人が家路に着く処を描いた絵は、夢のようであった。夕暮れ時の影が全体のトーンを落とし、より静かで深い印象を持った絵であった。この時間帯がまさにクレプスキュール(逢う魔が刻)であろうか。
○そのブリューゲルの代表的な絵に『バベルの塔』があり、ものすごい迫力が写真からもうかがえる。あまり洋モノは不案内な小拙であるが、この絵とシュバルの理想宮だけは見ておきたいものだ。
○パリのエッフェル塔は、エッフェル卿という人が設計して、建てた。19世紀の当時も景観の問題などで塔の建設に賛否両論あったそうだ。エッフェル塔の色は、街にあって最も目立たない色に決められたそうである。先日小火騒ぎがあったが、無事であったようだ。
○火事で取り壊しとなったのは、大阪の初代通天閣である。確か隣の劇場が焼けて、戦時中でもあったので、鉄を供出するということで壊してしまった。パリのエトワール凱旋門似の門の上にエッフェル塔を模した初代通天閣は当代一の奇天烈な建築物だったように思う。
○大阪には現在の二代目通天閣とは別に大阪タワーがある。ABC朝日放送用の電波塔のようであるが、観光用に登ることもできるのではないか。隣にあったホテルプラザも今は無い。この階上にあったフランス料理屋「ランデブー」は名店であった。大阪タワーはあまりにもマイナーか。
○京都タワーは如何にも京都らしく、ロウソクをイメージしたものだというが、いまいちイケてない。マクドの看板を茶色にし、京都駅ビル景観論争に華を咲かせる京都人でもあれは許せたのか。
○大阪・富田林「PLランド」にはPL教団の塔がある。人の肘から先の意匠で、人さし指が天を指している。唯我独尊、指が独特。
○中国・長安(西安)では有料で大雁塔に登った。降りて来たら急に世俗的な欲望が高まり、安物の猫型の枕や顔真卿、王義之といった字がうまいと云われている人たちの拓本を買った。子等に絵葉書を買え、と迫られたが全く買う気がしなかった。普通に座って売っていたら買うのに。
○石碑などをそのまま拓本に写したら文字は反対になるはずなのに、きちんと読める。あれはどういうパリティのカラクリになっているのだろうか。そうか、字が白いというところがミソか。
○仏・ディジョンでは無料で旧ブルゴーニュ公宮殿の塔に登った。降りて来ても下には何も売っていなかったので、マイユという洋芥子屋で粒入りマスタードの大瓶を買った。タルタルステーキに大量に乗せる。これは旨い。
○タワーというものは塔状のものを指すものだと思っていたが、最近では細長い上背のあるビルもタワーという。小拙から云わせたらあれは邪道だ。タワーの本随は初代通天閣にあるような鉄骨の風情に止めを刺す。阪妻の映画「王将」には初代通天閣が写るが実写であれば貴重な映像資料である。
○滋賀県の長浜には有名な「長浜タワー」がある。小拙も比較的最近発見したのだが、ワビサビが効いていて、かなり風情がある。小拙は高所恐怖症でもあるのだが、ここなら怖くない。