8月某日
資料によれば '70年の万博の時に可能性があったらしいが、おそらく件のマイアミ事件のせいで中止となりその後、ジムが急逝したため結局、実現しなかった来日が、実に33年を経て正に紆余曲折の果て、実現した。本年の “サマーソニック03”は、レディオヘッドのライヴが決まった時点で成功はほぼ間違いなく、野外コンサートでありながらなんとチケットがソールドアウトという異例の事態を招いた。あらゆるロック ファンにとって必然とさえ言われた、レディオヘッドのライヴ体験とほぼ同じ時間に、解散して30年以上にもなるバンドのライヴがひっそりとしかし、一握りの熱いファンの前で披露されたのだ。これもまたもう一つの歴史的必然と言うべきか…
長年のファンとしては、あのライヴ アルバムの冒頭の紹介アナウンス、“フロム ロスアンジェルス カリフォルニア ザ ドォァーズ!!” という叫びから、「ロードハウス ブルーズ」の耳慣れたリフがシャッフルのリズムに乗って、レコードと寸分違わぬ音色で鳴り出した瞬間に、全身の毛穴が一気に開いたという感じだった。ぞわぁわぁ〜 と
ロビーとレイの紡ぎ出すサウンドは実にレコードのあの古臭い音色を見事に再現しており、音響技術の長足の進歩にまず感じ入った。技術的には違和感なく、きちんとした演奏がされ、むしろ若さに任せた力技一辺倒だった当時よりも、むしろ上手に肩の力の抜けた今の方が良いのかもしれない。彼らも恐らくは還暦を迎えるおじいさんロッカーなのだから…
元カルトのヴォーカリストであったイアン・アストベリーは、前半ずっとサングラスであったがそれをとった後半のステージでも長くウェーヴした髪型もあいまってジムの雰囲気が良く出ていた。しかし、稀代のカリズマ ジム・モリソンを演じるのは彼にとっては実にストレスなのではないだろうか? どこまで完璧に演じても死者のイメージには勝てないのだから気の毒な話である。
ジムはライヴでは即興の詩を突然に口ずさみ、狂ったようなパフォーマンスを繰り広げたということだが、それを彼に期待するのは酷な要求である。ザ フーのロジャー・ダルトリーばりにブン ブン振り回す関係で、コードのついた旧態然としたマイクを使っていたが、そのせいで「ワイルド チャイルド」のようなくるくる回りながら歌うところ等では、上手い具合にマイクを左右に持ち替えていた。そうしたしぐさも含めて、よく研究しているなと思わせた。
ラストは“さぁ〜 大阪の夜を燃やし尽くしてやるかナァ…”とコメントが入ってあの何百回と聞いたオルガンの印象的なフレーズから「ライト マイ ファイアー」がスタート。ロング ヴァージョンとは言えめちゃくちゃに長い演奏になり、途中からは元のコーラスに戻れなくなって、レイが演奏を止め、ギターとドラムスと観客を交互に指刺して演奏を促すパフォーマンスで、なんとか持ちこたえた。これはまずますご愛嬌ではあるが、ある意味、こうした下手さも含めてドアーズなんだなぁ と(苦笑)
アンコールでは、なんと「L.A.ウーマン」。曲の後半では、イアンがまるでジムがやったように客席になだれ込み、聴衆の頭上をあお向けに運ばれながらも歌い続けるという、往年のジムのパフォーマンスを披露。さすがのレイもロビーも、当時を思い出したのか苦笑いをしていた。その笑顔は、地獄の季節を生き抜いた'60年代の強者たちの安息の表情でもあった。
ジムのいないドアーズをドアーズと呼んで良いのか? という今更ながらの疑問は実は大きなお世話であって、ジムが急逝した当時も、ドアーズは3人でアルバムをさらに2枚発表しているのだ。例えば、ロバート・フィリップが仕切っていても、現在のキング クリムゾンは我々の期待しているキング クリムゾンとは似ても似つかぬもので、むしろ、我々の幻想は21thセンチュリー スキゾイド バンドの方にある。ロビー・ロバートスンがいなくてもレヴォン・ヘルムが歌った時点でザ バンドはザ バンドだった。
ないものねだりをしてもしょうがない。この絶望的に濁ったオルガン サウンドと恐ろしく骨太なギター サウンドのコラボレーションが日本で再現されたというだけでも特筆すべきことなのだと思う。単独での来日公演をぜひ、期待したい。
●ロック史に残るデビュー アルバムから半年という非常に早いタームで録音されたセカンド アルバム。わすか一年でこれだけ密度の高いアルバムを2枚も製作できたという事実は、この時点でドアーズがいかに高いレベルに到達していたか? そしてまた同時に、あとはゆっくりと退潮していくだけなのだろうという哀しい予感もさせる。ファーストの「ジ エンド」に匹敵する大作「音楽が終わったら」が収められた時点で、この作品もまたロック史における重要なモニュメントとなった。
●「音楽が終わったら」以外は3分弱の小品が並ぶが、ジムの詩作の凄まじいイマジネーションの広がりを最も強く感じさせる楽曲が並ぶ。中でもドアーズ結成の直接のきっかけとなった「月夜のドライヴ」や詩人としてのジムのポエトリー リーディングが冴えまくる '67年当時としては斬新過ぎる「放牧地帯」、一人静かに聞いていると正に自殺したくなる名曲「幻の世界」は必聴である。
●今回のサマーソニック03の告知では、このセカンド アルバムのジャケットをもじったパブリシティ写真が撮影されている。