“猟奇的な日記”はタイム テーブル的には、いまだ昨年12月時点の話題が中心なのだが、今回はサスガに頭にきたので、時計の針を一気に進めて1月の話題を先に脱稿してしまった。

 苦言を呈する。

 昨今のPRIDE各大会のレベルの高さには筆者も感服しており、2月1日、2年5ヶ月ぶりに大阪城ホールでの大会開催が決定し、しかもメインイヴェントのカードがPRIDEヘヴィ級王者決定戦 正規王者エメリヤーエンコ・ヒョードル vs.暫定王者と喧伝された時点で、是非、観戦したいと思った。

 というのも昨年11月9日のPRIDEヘヴィ級選手権が正規王者ヒョードルの故障により延期され、その試合を暫定王者決定戦へと振替えた時点で、次回開催が決定していた大阪大会でヘヴィ級王者決定戦を行うことは必然的な流れと思えたし、このカードは正式決定ではなかったが、PRIDE側から各マスコミへ流された情報もそういった印象を与えたるに十分であった。

 現に11月9日の大会を特集したNumber 589号(11月27日)には“来年2月には、エメリヤーエンコ・ヒョードルとノゲイラの王座統一選が実現する”と書かれているし、週刊ファイト 1851号(1月29日)の記事には“2・1はヒョードル vs.ノゲイラ兄で賄える。だから桜庭も吉田(秀彦)も出る必要はない”との記述がある。

 実際、いかにPRIDEの人気が高いとはいえ、マーケットの小さい地方大会でおざなりなカードを持ってきても満員になるはずがないし、またこの不況下でカード発表もない大会のチケットが売れることなどありえない。しかし、ヒョードル vs.ノゲイラ兄 はアンダー カードがいかにくだらないものであっても必見の一戦であり、これだけで大阪城ホールいや大阪ドームでも満員に出来るカードであると言えた。

 つまり、DSEは大阪大会のメイン イベントがPRIDEヘヴィ級 統一王座決定戦であると錯覚させるようなパブリシティを展開し、アンダー カードが何一つ決まっていない段階で、これだけをセールス ポイントとしてチケットを売り出したのである。しかも2年5ヶ月ぶり3度目の大阪大会という表現を多用することで、いやがうえにも好カード続出すら期待させたのである。

 11月の暫定王座決定戦で、クロコップがノゲイラに予想外の一本負けを喫し、大阪のメイン イヴェントは ヒョードル vs.ノゲイラ兄 となったかに見えた。実は、ヒョードル vs.クロコップの初対決を期待していた筆者はこの展開には大いに不満であったが、それでも“統一王座決定戦だから、まあいいか” と自分で自分を納得させていたのである。

 12月の中旬、早々とチケット先行予約なるものを行い〜これにはもちろんチケット代以外に先行予約に関する手数料なるものがバカにならない金額で発生する〜、代金の振込もすぐさま済ませチケット到着を今か今かと待っていたのだが、何と年が明けてもチケットが送られてこない。公式サイトを見ても、年末の『男祭り2003』の話題一色で大阪大会に関する正式発表は一切なく、嫌な予感がし始めた頃、2003年のミドル級トーナメントに続き、2004年の4月から8月にかけてPRIDEのヘヴィ級トーナメントが開催されるという華々しい発表のオマケのように大阪大会の全容が伝えられた。

 なんのことはない。正式な発表はされていないというだけで、唯一予定されていたと思われたヒョードルvs.ノゲイラ兄は行われず、件のヘヴィ級トーナメントの予選の予選を行うという。しかも参加選手の顔ぶれは、全盛期を過ぎ、ずいぶん前にお払い箱になったイゴール・ボブチャンチンやマーク・ケアー、アレクサンダー大塚、山本宜久、前大会で全く良いところなく秒殺されたダン・ボビッシュ、ドス・カラスJr.といった二軍選手ばかり。これでPRIDEとは看板倒れも甚だしい。参加選手には悪いが、もしチケットを買う前にこのカードが発表されていたら、筆者は絶対に観戦に行かなかったと断言できる。

 そしてその埋め合わせのように、急遽、投入されたカードが ミルコ・クロコップ(クロアチア) vs. ロン・ウォーターマン(米国)。クロコップが出るから良いだろうというDSEの自分勝手なイイワケは論外である。これはハッキリ言って、統一王座決定戦のアンダー カードとして相応しいのであって、決してメイン イヴェントのカードではない。なぜ統一王座決定戦をやらないのか? はっきり釈明すべきであろう。昨今、人気の法律相談番組にお伺いを立てれば、60%以上の確率で主催者側の詐欺罪が成立するのではないか? とさえ思う。

 まず、ノゲイラ兄はクロコップ戦の影響で、調整不良であるとは言いながらも、年末の『猪木祭3』には出場の用意があると明言している。従って、さらに1ヵ月が経過している現在、コンディションに問題はないはずである。次にヒョードルだが、年末の『猪木祭3』にイレギュラー的に参戦したことが今大会欠場の直接的な原因であれば、それこそ大問題である。それは年末の『猪木祭3』出場時点で大阪大会には出る気がなかったということになるし、それを容認したDSEは契約選手を契約違反の大会に出場させながら、本来、出場すべき大会への欠場を認めるという観客不在の背信行為を冒していることになる。

 これは事実上の決勝あるいは準決勝に相当する統一王座決定戦を行うことが、4月以降のヘヴィ級トーナメントに与える影響を考慮した経営的な判断であるが、さらにこうも言えるだろう。ヘヴィ級トーナメントの開催は、昨年、ミドル級トーナメントが発表された時点で既に決定事項だったわけで、大阪で統一王座決定戦を行なう気などハナからなかったのではないか。実は苦戦が予想される大阪大会の集客を狙って、統一王座決定戦をちらつかせるというあざとい戦略だったのだ、と。実際、チケットが売れなかった場合には、統一王座決定戦を正式投入するという二段構えだったのだろう。

 2月は6日にアメリカの超メジャー団体 WWEの“極東ツアー”、21日にスペル デルフィン率いる大阪プロレス主催の“スーパーJカップ”が同所で開催されるが、現時点ではPRIDEの一人勝ちのようだ。結果的にB級のしょっぱいカードだけで大勝利を収めたのだから、DSE陣営にとっては笑いが止まらないだろう。そこには誠意のかけらもない。今後、PRIDEの興行に筆者が出かけることは2度とないだろう。それだけは間違いない。

(2004年2月3日号掲載)
猟.記

 


[猟格プロ日記]
PRIDEよ、客をなめるな
信じがたいDSEの背信行為

建速猟奇王 p r o f i l e


 

決戦VTR
text/建速猟奇王

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11月9日 東京ドーム
PRIDE暫定ヘヴィ級王者決定戦
アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ(27)=ブラジル=
  vs.
ミルコ・クロコップ(29)=クロアチア=

 昨年8月、PRIDEミドル級王者決定トーナメント1回戦で行なわれた吉田秀彦vs.田村潔の試合が恐らく年間最高試合だろうと踏んだ筆者の予想をかるくブッちぎった凄まじい名勝負である。

 実は現時点で世界最高峰の選手は、スタンドでの打撃系(ストライカー)のクロコップ、組技系(グラップラー)のノゲイラ、グランドでの打撃系(パウンダー)のヒョードルの三人の誰かにほぼ決まりつつある。これは誇張でなく、この中の3人から勝ち残った選手が正に世界最強と言って良いと筆者は思う。

 そして、3月の試合でヒョードルに大差の判定負けを喫して以来、輝きを失ったノゲイラが圧倒的不利との下馬評の中、クロコップから生涯初のタップを奪った完璧な一本勝ちを収めたという意味でもメガトン級のインパクトを持って観客を圧倒した試合であった。

 この試合を技術的に解説することは実はさほど難しいことではないと思う。ノゲイラのグランドを警戒したクロコップの打撃がいつもより半歩分踏込みが浅かっただけ、その威力を減じ、それがノゲイラの距離を作らせてしまったということである。グランドになってしまえばいかなクロコップであれグラップラーの敵ではない。それは誰でも分かる事なのだが、従来そこまでのポジションに持ちこめた選手は皆無であり、クロコップのストライカーとしての技術は正に圧倒的だったということだ。

 ここで筆者が強調しておきたいのは、ノゲイラの“折れない心”なのだ。いかなノゲイラであれ無傷で自分の距離を作ることは不可能である。肉を斬らせて骨を絶つ戦法を取らざるを得ないノゲイラにとって、それは気の遠くなるような痛みとの戦いであったはずだ。踏込みが浅いとは言え敵はあのクロコップなのだ。1ラウンドの終盤でKO直前の打撃をもらったにもかかわらず、ゴングに救われたのもノゲイラの強運を物語っている。そして、逆にこの一撃でクロコップに生じた針の穴ほどの心の間隙を見逃さなかったノゲイラは、正に超一流の格闘家である。

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