「それは恋が自ら退屈を選んでいるから」
掃除も恋がサボっているうちに終わり、教室には恋と愛の二人しかおらず、しんと静まりかえっている。日ごとにだんだん早くなる夕陽が、静寂の空間をセピアに色づかせていく。
「何かないかな。殺人とか恐喝とか」
恋は背筋をのばして、自由帳の新しいページに鉛筆を走らせた。大好きなホラー映画の主人公を描きはじめたのだ。
パーツも判別がつかないような不気味な顔、大振りの鎌。陰影もちゃんとつけた、毒々しく艶かしいイラスト。恋が描くホラーキャラクターには定評があった。
「……恋」
「わかっている。人の不幸は蜜の味……じゃないんだよネ」
鉛筆のサラサラという足音が不思議に反響している。もしかしたら、恋が寝ぼけていたから、脳内だけの出来事かもしれない。
ここで注釈を入れるのも妙だが、恋と愛は、一卵性の双子である。生まれる前から、十八年経つ今日まで一緒に生きてきた。
が、目鼻立ちこそ並べてみれば似ているが、恋と愛が双子とはにわかに信じられない事実だ。外見だけ比較しても、恋は艶のある濃緑の髪を雑に切ってあり、同色の、アンニュイな翳を落とした瞳をもつ。でも、愛は濃い灰色の髪を輪郭にそった髪型に整えて、瞳に常に穏やかな笑みを湛えているのだ。身長にも五cmの差がある。兄である恋の方が小さいので、そこは誰も指摘しないが。
性格も似ていない。恋はホラー映画・小説が大好きで、明朗快活な少年だ。対して愛は現実的で大人しく、平和主義者である。
それでなかなかどうして、恋と愛の仲の良さは校内でも有名。つまり、二人は似てこそいないが、それが逆に兄弟仲を支えている、とも言える。似すぎていれば反発しあうことがあるから。磁石の同極同士のように。
それに恋と愛には協力し合わなくてはならない事情があった。 |