如 月 玲 p r o f i l e
水 無 月 絵 里 p r o f i l e
あ ら す じ

 

もういいかい……
まぁだだよ……
耳を澄ませば、悪魔の隠れん坊が聞こえる。

 

「ふわぁ……」
 中だるみの木曜日。白崎恋しらさきれんは、机に突っ伏して大きな欠伸をした。暖かい秋晴れの太陽が、恋の背中に当たる。ぬくぬくして気持ち良い。このまま瞼を閉じれば、光はなおも白く視界を輝かすが、構わずぐっすり夢の世界に落ち込んでしまいそうだ。

  が、この環境こそが、彼を現実に縛りつけた。

「恋、起きて」

 ふわり、と軟らかい感触が頭を叩く。まるでスポンジで叩かれた気分だ。

「……起きているよ……」

「って言ったって、私の目には、そのポーズはどう見ても寝ているようにしか映らないな」

「口うるさい奴……」


 スポンジは、弟・白崎あいの手だった。

 恋が枕にしているのは、学校の備品である。そして、現在地は高校の自分の教室だ。日焼けの残る手首で時を刻む、青い安物の時計を見れば、まだ時間は三時四十八分。帰宅できるのは、簡単に計算して三十分後ということになっている。校則ではないが、暗黙のルールだ。これ以上早く帰宅すると、クラスで浮くことにもなりかねないのが大衆意識の怖いところ。思いっきり幽霊文化部員の恋は、運動部の人間から陰口を言われることもある。

「……学校って……暇だなぁ」

 
登 場 人 物

「それは恋が自ら退屈を選んでいるから」

 掃除も恋がサボっているうちに終わり、教室には恋と愛の二人しかおらず、しんと静まりかえっている。日ごとにだんだん早くなる夕陽が、静寂の空間をセピアに色づかせていく。

「何かないかな。殺人とか恐喝とか」

 恋は背筋をのばして、自由帳の新しいページに鉛筆を走らせた。大好きなホラー映画の主人公を描きはじめたのだ。

 パーツも判別がつかないような不気味な顔、大振りの鎌。陰影もちゃんとつけた、毒々しく艶かしいイラスト。恋が描くホラーキャラクターには定評があった。

「……恋」

「わかっている。人の不幸は蜜の味……じゃないんだよネ」

 鉛筆のサラサラという足音が不思議に反響している。もしかしたら、恋が寝ぼけていたから、脳内だけの出来事かもしれない。                 

 

 

 ここで注釈を入れるのも妙だが、恋と愛は、一卵性の双子である。生まれる前から、十八年経つ今日まで一緒に生きてきた。

 が、目鼻立ちこそ並べてみれば似ているが、恋と愛が双子とはにわかに信じられない事実だ。外見だけ比較しても、恋は艶のある濃緑の髪を雑に切ってあり、同色の、アンニュイなかげを落とした瞳をもつ。でも、愛は濃い灰色の髪を輪郭にそった髪型に整えて、瞳に常に穏やかな笑みを湛えているのだ。身長にも五cmの差がある。兄である恋の方が小さいので、そこは誰も指摘しないが。

 性格も似ていない。恋はホラー映画・小説が大好きで、明朗快活な少年だ。対して愛は現実的で大人しく、平和主義者である。

 それでなかなかどうして、恋と愛の仲の良さは校内でも有名。つまり、二人は似てこそいないが、それが逆に兄弟仲を支えている、とも言える。似すぎていれば反発しあうことがあるから。磁石の同極同士のように。

 それに恋と愛には協力し合わなくてはならない事情があった。

 

2005年9月26日号掲載

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