※本連載は筆者サイト[銀の人魚の海]に掲載されたものを再編集したものです。

 男女がつむぐ関係は人類の永遠の謎、神秘であると考えたとき、さまざまな男女が入り乱れる映画の世界で、“愛人”という映画的な存在がどのように扱われているのかが気になりはじめました。

 
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[愛人映画]ミクシ受付口

 映画に登場する愛人は綺麗すぎる、激しすぎる、妄想すぎる、狂気すぎる、など、少々偏っているケースが多いような気もします。反面、例えば成瀬巳喜男監督作品で多く見られる愛人は、かなり現実的・日常的で、金銭問題なども露骨に語っていたりします。どちらかというと日本映画の方が、現実感がある愛人が多いのでしょうか。文化の差かなとも感じます。外国映画では、金銭がからんで殺人事件に発展し、サスペンス化してしまうことも多いように思います。

 もっとも、少なくとも現在、愛人の登場率はそう高いものではありません。
2006年に入ってから4月までに見た16本の洋画のうち、愛人が現れた映画はたった1本。それもあまり強烈ではない愛人関係でしたから、案外、探してみるとないものなのかもしれません。だからこそ印象に残る古い愛人映画には、誰もが「そうだ、あの愛人!」と膝を叩いてしまうものがあるはずです。

 こんなことを考えるうち、愛人が登場する映画の見方を思いつくままに挙げてみたくなりました。

  • 日常から離れて、ちょっとした愛人願望を心に秘めて見る。
  • 無責任にただ映画の物語として楽しんで見る。
  • 自分の体験と重ね合わせて、「そうだな〜」「バカだな〜」などと真剣にメモをとって見たり、自分の経験談を語りたくなってうずうずして見る。
  • 継続中の自分の愛人と映画の愛人を比較して、次はもっといい男(女)にしようなどと考えながら見る。
  • 妻(夫)を心から愛しているので愛人など別世界で、愛人などという言葉も口にしたくないので、多少嫌悪感を持って見る。

 読者の皆さんはいかがでしょうか。

 この連載では、読者の皆さんから「愛人映画」を挙げていただきながら、愛人という存在を気ままに考察していきたいと思います。ただし愛人を厳密に定義するようなことはしません。愛人らしき人が出ているだけでも「あれも愛人よ」などと、皆さんの愛人感性でご自由に挙げてください。暇で気が狂いそうな時、映画で知った愛人に悔しくなった時、こういう愛人なら私でもなれると思った時、寝つかれない時、お掃除の合間など、ぜひご参加くだされば幸いです。



あなたのとっておきの「愛人映画」を教えてください


ことの終わり
 
'99/アメリカ/監督:ニール・ジョーダン 出演:ジュリアン・ムーア レイフ・ファインズ スティーヴン・レイ イアン・ハート  
この映画の論点は、「愛人が近いと便利か、否か」だ。

近距離に愛人が住んでいる知人は二人いる。一人は以前住んでいたマンションの方で、大学教授。奥様はお綺麗でスタイルも良いのに、本人は禿げていて(禿は精力の印)、とても愛人がいるようには見えない方だったが、線路を挟んだところに住む愛人を選択したのには驚いた! 昼間そのあたりで会い、お店もない線路の向こう側で何を? たぶん愛人宅からの帰りだったのだろうと妙に納得。もう一人は開業医。スーパーで愛人と奥様が遭遇する、映画のワンシーンのような過激な生涯を選択したせいか、80代の今は病に苦しんでいるようで、長年の複雑な性生活+もろもろには、ご苦労様。

私なら適度に近いと便利かなと思うけれど、自分が男性だったら、わざと近くに住まわせて、妻と愛人双方の嫉妬心を煽りたいという姑息な思えも浮かんくる。読者の皆さんはいかがでしょうか、愛人との距離。

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獲物の分け前
 
'66/フランス/監督:ロジェ・ヴァディム 出演:ジェーン・フォンダ ピーター・マッケナリー ミシェル・ピッコリ  

レイフ主演映画より先に頭に浮かんだマイ・カルト映画。好きなロジェ・ヴァディム監督の、デビュー10年後くらいの映画。たまらない愛人です。だって、たしか10歳位年下の義理のハンサム息子、もう言うことない恋だけれど悲恋、狂気に終わる心理暴力的愛人関係。ジェーン・フォンダの義理の息子のこの役を演じるのは、当時のブラピだと勝手に思っているピーター・マケナリー様。

裕福な自宅の温室、熱帯育ちらしき大量の植物を舞台にした綺麗で淫れたシーンは、映画史上初なのでは。夫の留守に温室で義理の息子と戯れる若き妻なんて、想像を超えてすご過ぎる。

ピーターのその後をネットで調べてみたら、もともと舞台の人のようで、本作以降は映画では見られなくて残念。もう60代になると思う。嫉妬と怒りに狂う夫/父はミシェル・ピコリで、これまた彼以外にない適役。若き妻と息子をジリジリと追い詰めるドラキュラのような役どころ。バルドー、ドヌーヴ、ジェーンのお相手をしてきたヴァディムでなければ決して撮れない映画。

原作はエミール・ゾラ、ちくま文庫で2004年初訳。原題「la cure′e」は狩猟の用語で、狩りの最後に獲物の肉を投げ与えられた猟犬たちが先を争ってむさぼることを指す、とある。DVDも発売すぐに購入したほど魅了された愛人映画だ。

でき過ぎ若き愛人狂気終演系。

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カミーユ・
クローデル
 
'88/フランス/監督:ブルーノ・ニュイッテン 出演:イザベル・アジャーニ ジェラール・ドパルデュー マドレーヌ・ロバンソン  

イザベル・アジャーニが彫刻家ロダンの愛人役で、悲惨な待遇だったと記憶している。カミーユも才能ある彫刻家だったようで、こういう愛人は損だな。
イザベルはこれでベルリン映画祭で主演女優賞を獲得。彼女にとっては最高の愛人役だったか。

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マディソン郡の橋
 
'95年/アメリカ/監督:クリント・イーストウッド 出演:クリント・イーストウッド メリル・ストリープ アニー・コーリー  

4日間の“我が家愛人”生活。映画として嫌いではないけれど、とにかく哀れな旦那だ。映画芸術に載った座談会がとても笑えて、荒井氏をはじめとする皆の意見「どこが悪いのこの旦那?」に、私も同感。どこにでも普通にいる、良い旦那でしかないと断言しておこう。妻になったら多くは望むな! 望むなら離婚しろ! 夫にも言えることだが、夫婦の基本大教訓である。

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あなたのとっておきの「愛人映画」を教えてください

2006年4月17日号掲載

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