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東京の出版人が長年呻吟しつづける
出版不況といった苦境を
易々と乗り越えてしまう彼らのフットワークの軽さと、
代表を務める大野裕之の大胆な編集手腕に脱帽。
 

 

text/大須賀護法童子 執筆者紹介

 すべてのものが商品化された80年代、アントニオーニやゴダールすらもオシャレな記号として流通 していたあの時期に、パゾリーニだけはその手の消費にそぐわないある種の「過剰さ」を身にまとっていたことを思い出す。同性愛の愛人に殺されたと当時伝えられた、死を巡るスキャンダルからも醸し出されるその過剰性ゆえに、市場からこぼれ落ち忘れ去られてしまったパゾリーニの、文学者としての側面 も含めた全体像を改めて浮き彫りにし、復権を企てているのが本書である。

 本書で書かれていることでとりわけ興味を惹くのは、彼がその文学者としてのキャリアを、フリウリ語というイタリアのマイナー言語で書く方言詩人として出発したという事実。やはり地方出身でありながらローマにこだわりローマの言葉で語りつづけたフェリーニとの対比においても興味深い。このことは、60年代の政治の季節の文脈からのみ語られてきたパゾリーニの姿を、現在の多文化主義やマイノリティの政治学の文脈から改めて捉えなおす視点を提供してくれる。

 本書は、そのパゾリーニの詩の翻訳に取り組んでいるという四方田犬彦と浅田彰らによる対談とシンポジウムを中心に、大島渚へのインタビューやイタリア研究家によるレポートなど多彩 な内容で構成されている。パゾリーニを語る日本の映画人としてなぜ大島が選ばれたのか定かでないが、インタビューを読むと「なるほど、パゾリーニを語れる監督はこいつしかいない」と頷かされてしまうのが可笑しい。

 これを上梓したのは、これまでに『マルクスの現在』『ゴダールの肖像』『チャップリンのために』などを発行してきた京大のミュージカル劇団「とっても便利」出版部。東京の出版人が長年呻吟しつづける出版不況といった苦境を易々と乗り越えてしまう彼らのフットワークの軽さと、代表を務める大野裕之の大胆な編集手腕に脱帽する。

「パゾリーニ・ルネッサンス」
四方田犬彦・浅田彰・和田忠彦・田中千世子・土肥秀行・石田美紀・大野裕之/大島 渚/ピエル・パオロ・パゾリーニ  編集:大野裕之
発行=とっても便利出版部 1800円+消費税

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