じつはひそかにアンパンマンを予告していたのだが、あれは、どうにも書くことがたくさんありすぎて、ちっとも準備がはかどらないので、しばらくお預け。
で、今回とりあげるのは「くまのコールテンくん」。この本は、クマ好きの三男のためにわが家にやってきたが、前に書いたように、彼が求めるクマはフィービ・ウォージントンのテディベアにしかなく、いまひとつ気に入ってもらえなかったようだ。英語の教科書のようなタッチの絵は、筆者もあまり好きになれないのだが、意外と人気があり、絵本紹介ではよくとりあげられているし、子供に読んでやってるうちに涙が出てきたという人もいる。ビデオも出ているらしい。また、原作は
Corduroy(本書、松岡享子=訳・偕成社)
Pocket for Corduroy(『コーちゃんのポケット』西園寺祥子=訳・ほるぷ出版)
Corduroy & Company
Corduroy's Busy Street
Corduroy Goes to the Doctor
とシリーズ化されているらしいのだが、「コーちゃんのポケット」というのは見かけたことないなあ。
コールテンとはパイル織物の一種で、縦方向に畝状に織り出した綿ビロードである。畝の幅は細いもので
1.3mm、太いものではおよそ 4mm。その名はcorded velveteenから来ているとおぼしい。ヴェルヴェッティーンといえば、別
珍なんて懐かしい言葉もあったなあ。ちなみに、別名であるコーデュロイ(corde
roi)は「王様の畝」とのこと。王のお仕着せ用の布地なのである。
さて、舞台はデパートの玩具売り場の一角。「どうぶつも、にんぎょうも、みな、はやくだれかが きて、じぶんを うちに つれていってくれないかなあと、おもっていました」。もちろん、コールテンくんも。
アフリカ系?のアメリカ人母娘がそこを通りかかる。コールテンくんをおねだりする女の子に、お母さんは「これ、しんぴんじゃないみたい。つりひもの ボタンが、ひとつ とれてるわ。」と言う。傷つくコールテンくん。
そしてその夜、ボタンを探すコールテンくんの冒険が始まる。エスカレーターに乗って、家具売り場へ上がったコールテンくんは目を丸くする。「テーブルや いす、でんきスタンドや ソファー、それにいくつもいくつもの ベッドが、ずらっと ならんでいるではありませんか!」子供であれば誰でもおぼえがあるだろう、興奮せずにはいられない光景。このあたり、絵本を読んでもらっている子供たちが陶然としている様子が目に浮かぶようだ。
「これ、きっと おうさまの ごてんだ!」息を弾ませたコールテンくんだったが、ベッドのマットレスに付いたボタンを(自分のボタンだと思いこんで)引き抜こうとして電気スタンドを倒してしまい、警備員のおじさんに抱かれて玩具売り場へ戻されてしまう。結局ボタンが取れたままのコールテンくん。はたして、誰かが彼を家へ連れて行ってくれるのだろうか……。
翌朝、また昨日の女の子(リサ)がやって来る。彼女は自分の貯金をはたいてコールテンくんを買いに来てくれたのだ。「かいだんを いくつも のぼったところ」にあるリサのアパートの自分の部屋。
…そこには、いすと、たんすと、おんなのこようの ベッドが、ひとつ ありました。そして、そのベッドの わきに コールテンくんに ぴったりの おおきさの、もうひとつの ベッドがありました。へやはちいさくて、デパートに あった あのひろい ごてんとは おおちがいです。「これが きっと うちって いうもんだな。」と、コールテンくんは おもいました。「ぼく、ずっとまえから うちで、くらしたいなあって おもってたんだ。」…
どうやらコールテンくんは、感激すると、「ぼく、ずっとまえから ××したいなあっておもってたんだ」という口癖があるらしいのである。まったく、かわいくない口癖だが、ミルンのプーをを思い出してもわかるように、絵本におけるクマのキャラクターには、どうも、
<たんたんとしている> という共通点があるのである。そこのところが逆に読む者の感情移入を誘うらしい(本誌連載の椏月ライチ氏「テディ」は、どうだろうか)。
そして彼女はコールテンくんにボタンをつけてくれる。「ともだちって きっと きみのような ひとのことだね。」とコールテンくん。「ぼく、ずっとまえから、ともだちが ほしいなあって、おもってたんだ。」……
アメリカの大学のクリティカル・リーディングの授業では、コールテンくんやリサのロールプレイを通
じて、ボタンがないことによる疎外感を読み取ったりもするようだ。リサの母親の視点から物語を再構成したりもするらしい。ふーん、と思うが、あまり感心は、しないのである。