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text/ 高梨 晶
 
野モヨコを初めて読んだのは95年の春、中綴じの「Girly」という雑誌だった。買い慣れていないマンガ雑誌を買うとき、何に注目しますか。あるいはどこから読み始めますか。私は

(1) 漫画家(好きな作家が載っているか・好きな作家から読み始める)
(2) 絵のきれいさ(絵がうまいか・背景やら人物やらが混んでいない絵から読み始める)
(3) そのあと頭から順に読む

という形を取っている。
 その雑誌には(2) にあたる、よしもとよしともが載っていたので、まず読んだ。
 安野モヨコはそのとき (2)にあたった。絵がきれい。丁寧ではないけれど、登場人物の着ている服がすごくかわいい。でもそのときはそれだけしか印象に残らなかった。最近多いなあ、こういう絵柄、としか思わなかった。
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※上の写真とは異なります。
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   筆  だ    
   が  ん    
   踊  だ    
   っ  ん    
   て  お    
   い  も    
   る  し    
   と  ろ    
   い  く    
   う  な    
   か  る    
    ゜ の    
      だ    
       ゜   

の2年後、雑誌の評で『ハッピー・マニア』が取り上げられていて、面 白そうだったので近所の本屋で1〜3巻をまとめて買った。ものすごくおもしろかった。こういう連載ものだと「2巻くらいまではおもしろかったんだけどねえ」ということがあるけれど、段々おもしろくなるのだ。筆が踊っているというか。主人公・重田加代子(シゲタ、と劇中ではよばれている)の暴走劇が止まらない。まだ止まっていない。今もフィールヤング紙上で連載中だ。

 シゲタは何で/何に暴走しているかというと恋人探し、という至極少女マンガ的なことなのであるが、少女マンガの場合、恋愛ものは

・彼が好きで告白しようかどうか
・付き合ったけどうまくいかない、

のパターンがある。でもこのマンガの場合シゲタの目的(最大関心事?)が、「どうしたら恋人ができるのか」なのである。

 シゲタは美人に描かれている。ファッションも大変イケてる。好いてくれる男もいる(高橋という。東大に在学していたこともある、容姿はたぶん普通 )。にもかかわらず恋愛が成立しない。シゲタの言うところの「しびれるようでくるくるまわってて、甘くて苦しいしびれるような」恋は、いまのところやってきていない。

ゲタの友人はフクちゃんといい、美容部員をしており、大変美人に描かれている(すっぴんが別 人のようだというキャラもたっている)。このフクちゃんも恋愛街道を(シゲタほどではないが)走っている。このマンガにおける賢人である。シゲタを教え、導く役割を担っている。この二人が恋に酔わないのだ。とても客観的に、自分たちの置かれている状況を俯瞰してしまっている。シリアスになろうとすると、スルリとギャグに持っていってしまう。男に浮いたせりふを言われると「っていうかアンソニー?」とつっこんだり「何やそら」とどこまでも男に対して冷めている。恋愛したいのならばそこで笑ってはだめなのに。登場する女性キャラはみんな、ナルシシズムが欠落し、男の感情とずれている。

 安野モヨコがアシスタントをしていた岡崎京子や、桜沢エリカなども元来の少女マンガにあった恋愛観を破り、主人公たちはナルシシズムが欠如していた。彼女たちには、どこか世界を斜に構えてる風の、クールな感じが備わっていた。登場人物たちはおしゃれなのに自己評価が低く、作品はマンガなのに文学のような読まれ方をされてしまっていた。

 
   男  ナ    
   の  ル    
   感  シ    
   情  シ    
   と  ズ    
   ず  ム    
   れ  が    
   て  欠    
   い  落    
   る  し    
   女   `   
   性       
   キ       
   ャ       
   ラ       
    ゜      
 
   そ  臨  露  ギ    
   の  場  骨  ャ    
   ま  感  な  グ    
   ま  の  下  マ    
   の  あ  ネ  ン    
   セ  る  タ  ガ    
   リ  今   ゜ と    
   フ  ど     し    
    ゜ き     て    
      の     の    
      女      ┐   
      性     ハ    
      の     ッ    
      会     ピ    
      話     |    
       `    マ    
            ニ    
            ア    
           └     
             ゜   
p r o f i l e
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野モヨコは、その一連のマンガを、意識してか・していないかはわからないが、消化してしまったようだ。知性で作られた冗談ではなく、自然で、勢いのあるギャグ。今の若い女の子は皆きれいだし、恋愛やら性を、特別視していない。そんなん普通じゃん、彼氏は普通にしてればできんじゃん。そういう冷めた視点に対する一定基準が、既にあるのだと思う。その基準よりも、より冷静な、さらに面 白いことが求められ、安野モヨコはそれに答えている。単行本一巻の帯に、「こういうマンガが描きたかった」と岡崎京子をしていわしめさせている。

 でも、このマンガの一番の醍醐味は、シゲタの説く様々な恋愛観/シゲタが一人の時に考えているモノローグよりもやはり、ギャグマンガとしての「ハッピーマニア」だと思う。露骨な下ネタ。臨場感のある、描いてるときにアシスタントさん達と笑いながら描いたんだろうなあ、と思わせる、今時の女性の会話、そのままのセリフ。ドラマ化され、キャスティングは悪くなかったと思ったのだが、このマンガによる「絵」は、映像化できなかったようだ。

 フィールヤング2月号では、高橋と劇的?な再会を果たし、クライマックスも近いのかなあ、と期待している。もちろん今は、真っ先に読みますよ、安野モヨコを。 (高梨・H・晶、01/1/9号)

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