音楽の少年期に何をどういう視点で聴いていたか、ということを考えてみるきっかけになったのが、この曲である。ボブ・ジェームス。フュージョンである。80年代、「おしゃれ」というのが私たちの価値観に大きな影響を与えていた頃、飲食店やテレビ、ラジオでよく流れていたジャンルの音楽である。難解な感じの音楽ももちろん「おしゃれ」のカテゴリーには入っていたのだが、やはり一部の自己愛的聴衆のものだった。
その80年代、高校生だった私は音楽に夢中になっていた。中学生から宅録(自宅録音)に目覚め、シンセサイザーだのマルチトラックデッキだのエコーマシンだのを所有するようになっていた。そういうのは高校ではけっこう貴重で、楽器の演奏からレンタルからいろいろと依頼されていた。やれサックスを貸せ、録音やるから機材を用意しろ、キーボードを弾け、などなど。
そんなおり、演劇部から依頼があった。ミュージカルをやるので録音を手伝え、と。スタジオは生徒会室。おお。その当時楽器のうまい先輩というのが何人かいて、その人たちと曲を作りながら劇中歌を録音していった。その時に参考にしたのがこのボブ・ジェームス。キーボードをやる人はもう必ず聴いていた有名なアルバム「ハンズ・ダウン」が私たちのお手本だった。まあ、普通
の高校生である、ミュージカルで使う十数曲を全部作ることはでまあ、きず、
BGMの半分はこのアルバムに頼ったわけだが、歌の入るところは全部作った。
そのとき楽器で参加していた先輩たちの聴いていた音楽の傾向はバラバラなのだが、それぞれ自己愛的趣味を持ってはいた。しかし、自分たちで曲を作るときに参考とするものは「おしゃれ」な
BGMの代名詞、ボブ・ジェームスだったのだ。私の趣味からいえば当然「日和った」音楽なわけだが、「職人のメロディ」という観点から見れば、先輩たちを含めて皆「すごい」と思ったわけだ。これ以前にボブ・ジェームスには好きなアルバムがあった。「トゥー・オブ・ア・カインド」というやつ。フュージョンギタリストのアール・クルーが参加したこのアルバムは、プログレ、ニューウェーブに浸かっていた私にも穏やかな喜びを与えてくれたものだった。
今回の曲「アンジェラ」は「タッチ・ダウン」というアルバム収録。聴いていただくとわかるように、なんてことない
BGMである。これ以上のことを深読んで聴いているわけではもちろんない、私だって。それでもこの
BGMとしての、メロディのすばらしさは誰にでもわかるのではないか、と思うのである。なぜ多くの人が、このメロディを快適さの方向に受け止めるのか、その秘密がわかれば私だって明日から職業作曲家になれる。いったいなぜこのような曲ができるのか。わからないんだけどね。
とにかく、 BGMとして素直に流してみると、音楽から受け取る快適さの一部が見える気がする曲。本物はもっとすごいんだけど、MIDIでもその一端は感じることができると思います。ボブ・ジェームスも今ちょっと再評価されてほしい作曲家です。
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