turn back to home「週刊電藝」読者登録

 
 ※

※ ※

 ワールドカップを終えてすでに1週間。すでにその余韻は消えつつあり、次期代表監督としてジーコの名があがり、かつてあれほど高かったトルシエへの熱は急激に冷めつつある。このトルシエへの熱の冷め方の裏には韓国代表監督フース・ヒディングへの微かな嫉妬があるような気がしてならない。
 もしフース・ヒディングが日本の監督だったら、という心情が熾き火のように燻っている。もし日本の監督がトルシエではなくヒディングだったら、日本も決勝トーナメント1回戦でトルコ相手に不完全燃焼のような負け方をしないですんだのではなかろうかという気持ちがサポーターの間に共有され、そのことがトルシエへの熱の冷め方の裏に燻っているように思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それほどまでに、韓国がベスト4まで進出したことは驚きだったのだ。これは日本だけにとどまらない。世界のサッカー界にとって驚きだった。優勝候補筆頭と呼ばれたフランスの開幕戦での敗戦を皮切りに幾つかのサプライズがあった今大会の中でも、韓国の躍進は最大のサプライズだったと言ってもいいだろう。

 ワールドカップを終えてすでに1週間。すでにその余韻は消えつつあり、次期代表監督としてジーコの名があがり、かつてあれほど高かったトルシエへの熱は急激に冷めつつある。このトルシエへの熱の冷め方の裏には韓国代表監督フース・ヒディングへの微かな嫉妬があるような気がしてならない。

 もしフース・ヒディングが日本の監督だったら、という心情が熾き火のように燻っている。もし日本の監督がトルシエではなくヒディングだったら、日本も決勝トーナメント1回戦でトルコ相手に不完全燃焼のような負け方をしないですんだのではなかろうかという気持ちがサポーターの間に共有され、そのことがトルシエへの熱の冷め方の裏に燻っているように思う。

 それほどまでに、韓国がベスト4まで進出したことは驚きだったのだ。これは日本だけにとどまらない。世界のサッカー界にとって驚きだった。優勝候補筆頭と呼ばれたフランスの開幕戦での敗戦を皮切りに幾つかのサプライズがあった今大会の中でも、韓国の躍進は最大のサプライズだったと言ってもいいだろう。

 韓国の予選リーグのグループは、韓国、ポルトガル、アメリカ、ポーランドの4カ国。ユース年代から強化を重ねワールドユースでも結果を残しながらスーパースター、ルイス・フィーゴを中心に今大会に臨み優勝候補の一郭にもあがっていたポルトガル。8年前のワールドカップ・アメリカ大会を期に強化を続け着実に力をつけてきたアメリカ。ポーランドだってヨーロッパ予選を勝ち抜いてきた国だから弱いはずがない。それに韓国には根強いヨーロッパコンプレックスがある。なにしろヨーロッパのチームには歴史的に勝てないのだ。だから大会の組合せが決まったとき絶望の涙を流す韓国サポーターもいたくらいで、比較的楽だと思われたグループに入った日本をうらやむ声が海峡を渡って聞こえてきて、日本サポーターは自らの幸運に幾分気分を良くしていた。

 大会が始まり、韓国はポーランドに2−0で勝つもののポルトガルがアメリカに敗れるという波乱があり、この時点で韓国とアメリカの勝ち点が3、ポルトガルとポーランドは0。第2試合、韓国とアメリカは1対1で引き分け。全体的に押していながら点の取れない韓国は70分のアン・ジョンファンのヘディングで追いつくという試合だった。一方、ポルトガルはポーランドに4−0で勝つ。

 この時点で韓国とアメリカが勝ち点4、ポルトガルが3、ポーランドは0という状況だった。韓国はまだ最終戦にポルトガルを残していて、勝ち点でトップに立ちながら決勝トーナメント進出にはまだまだ苦しい立場だった。なぜなら、韓国はポルトガルに敗れれば勝ち点4のまま、逆にポルトガルは韓国に勝てば勝ち点6、アメリカの最終戦はまだ勝ち点のないポーランドだから順当に勝てば勝ち点は6となり、ポルトガル、アメリカが決勝トーナメント進出となるからだ。

 ここでわれわれは予選リーグというもののサスペンスを十二分に味わっていた。英語では辛抱強い交渉のことを「tough negotiation=タフ・ネゴシエーション」というが、予選リーグの世界はまさにタフ・ネゴシエーションの世界だった。外交を始め交渉ごとには不得手だと言われる日本人が体験する未知の領域にも似ていた。

 そういう状況の中で韓国−ポルトガル戦のホイッスルが鳴った。

 決して好調とは言えないながら、明らかに格上のチームであるポルトガルに対し、開始早々から韓国は積極的に攻めた。もし日本が韓国の立場だったら果たしてこれほど相手に臆することなく攻めることができるだろうかという驚きを持ってわたしたちは試合を見つめていた。

 日本が格上のチームと戦う時そこにはいつも脅えがあった。格上のチームは日本を見下し、巨人に立ち向かう小動物のように身構えつつ立ち向かっていった。しかしこの日の韓国はそうではなかった。そこには満場を真っ赤に染める韓国サポーターの存在があり、彼らはサポーターを背に実に堂々としていた。むしろ脅えはポルトガルの方に感じられた。これではいつもと立場が逆ではないか。

 その同じ時刻、アメリカとポーランドも試合をしていた。どちらにも不公平にならないように試合時刻を揃えているのである。試合開始直後から刻々と一方の試合経過が伝えられた。何と開始早々からポーランドがアメリカから先取点を奪い、それどころか2−0でアメリカをリードしているというではないか。これは何を意味するか。

 アメリカが敗れた場合その勝ち点は4のまま。もしポルトガルと韓国が引き分ければどちらにも勝ち点1が加えられるので、韓国の勝ち点は5、ポルトガルは4。つまり韓国は1位通過。そしてポルトガルとアメリカは勝ち点4で並ぶが、勝ち点で並んだ場合は得失点差の多い方が上になるので、ポーランド戦を4−0で下したポルトガルが上に来ることになる。つまりポルトガルは韓国戦を引き分けてもいいことになる。

 それはとても印象強い光景だった。前半終了間際ポルトガルは自陣でボールを回し始めた。アメリカ戦の情報がピッチ場の選手にも伝えられたことは明らかだった。つまりポルトガルは韓国に引き分けを申し出たことになる。もちろんこれは不正ではない。まさにネゴシエーションの範疇にある戦略である。しかし世界的なスターを何人も擁するポルトガルが韓国相手にそういうネゴシエーションを申し出るとは何ということか。

 後半に入っても、韓国は積極的に攻めた。差し出された手を振り払うように。そこにはかつてヨーロッパコンプレックスと言われた韓国の姿はなかった。この試合はパク・チソンのゴールによって韓国が先制。ジョアン・ピントのレッドカード退場など微妙な判定があったとはいえ、終盤はポルトガルが攻勢に出て韓国は防戦一方。疲労が極限まで来ていた韓国は足を止める選手も多かったが、幸運に助けられたこともあってそのまま逃げ切った。

 その後の韓国がイタリア、スペインと破ってラテン・キラーとも呼ばれたことはご存知のとおりだが、その快進撃の端緒にあのポルトガル戦があった気がしてならない。そして彼らを後押ししたのはレッドデビルズと呼ばれる熱狂的韓国サポーターと監督フース・ヒディングの存在だろうとする気分が、日本サポーターの自責の念とトルシエへの冷め方に表れているように思う。

※ ※

※ 

  
▲このページの先頭へ