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              「ああ、恥ずかしかった。見て。真っ黒よ」 
               何かの木の実のように艶々したすずねの足指。 
              「案外と簡単だったよね。ブラウス、ありがと。やっぱり用意しといてよかった。あれ、さっきの紙袋は?」 
               それは縁側に放り出されたままだった。 
              「何が入ってるんだろ?」 
              「たぶん……」 
               がさがさと折り曲げた口を戻して、中から取り出されたビニル袋からは、セーターが出てきた。 
              「こんなもの、持ってきちゃって、大丈夫なんだろうか」 
              「だれも、なくなったことにさえ気づかないと思う」 
              「そうかなあ」要は首をひねる。 
               ざっくりとした糸で編まれたアランセーター。物置に入れておいたからだろうか、あちこちが黄ばんでいる。縄目模様が少しゆがんでいるのは、手編みだからだろう。 
              「手編みのセーターだわ、これ」すずねが言った。 
              「って、ほんとにこれを持ってこいって、さっきのが言ったのか」 
              「わからない、私には見えないし、聞こえないもの。ただ、そう言われた気がしただけ」 
               その瞬間―― <後悔> に満ちた、あの水色の気配が濃厚に立ちこめた。 
               
               
          
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