●「ショーロ」という音楽のジャンルがあることなど、熊本尚美さんにお会いするまで全く知らなかった。ブラジルの音楽で、ラテンやサンバの基になったという、シンプルな音楽である。
●ショーロというのはポルトガル語で「泣く」という意味で、熊本さんがブラジルで「私はショリストです」と云うと、「あなたは泣き虫さんですか」と問い返されることもあるという。
●熊本さんは、クラシック畑のフルート奏者であったが、ひょんなことから「ショーロ」に出会ってしまったようだ。フルートが主役の音楽なので、すぐに熊本さんはショーロで輝いてしまった。現在では日本のショーロ第一人者になっておられる。
●フルートのほかには、ギターやタンバリンなどの持ち運べるアコースティックな楽器で構成される。そういう手軽な構成ではあるが、そこからは中々の表現力豊かな音楽が奏でられる。
●リオなどでは、バーのカウンターでなにげなく集まった人たちが演奏をはじめたり、テラスの一画からショーロが聞こえてきたりするらしい。
●ブラジルに日本からの移民が多いということは何となく知っていたが、リオに居るわけではなく、大半はサンパウロという所に居るそうだ。
●熊本さんは2003年7月にファーストCDを発表した。そのタイトルは「Naomi Vai Pro Rio」というもので、「尚美リオへよお来たのお!」という意味だ。本国ブラジルのレーベルでリリースされた。短い曲ばかりであるが、印象深い曲ばかりである。
●熊本さんは、「神戸ブラジル音楽祭」というものを企画されている。ブラジルと縁の深い神戸を舞台に、ショーロを使って街の活性化を目指して準備中である。
●北野の旧ブラジル移民センターは、中が船の形をしている。研修期間から移民してゆく船に乗るまでに慣れておくように、との配慮などがあったそうだ。現在は「芸術と計画会議C.A.P」の「CAP HOUSE」として使用されている。
●そのセンターから海側へ鯉川筋を下って「海洋博物館」までの通りを別名「ブラジル通り」と呼ぶそうだ。知らなんだ。
●「神戸ブラジル音楽祭」は、2004年の4月に開催予定である。神戸祭りのサンバだけが「神戸―ブラジル」じゃない、ということをこの際多くの人にプレゼンした方が良い。
●神戸市の長田区には、全国的にも珍しいスティールパンのオーケストラ「ファンタスティックス」がある。日本のプレーヤーとしての第一人者の村上さんの奥さんが長田区出身で、縁ができた由。
●スティールパンのパンはフライパンのパンで、ドラム缶から叩き出して製作する楽器である。ドラム缶を二分して、底から角を削ったハンマーで叩く。
●スティールパンの種類にも多数あって、ひとつのパンの中に数十音階を出すものなど、元がドラム缶であるということが信じられないほど丸い柔らかい音色を出す。
●スティールパンは20世紀最後の楽器とも呼ばれているそうだ。カリブ海の東、トリニダードトバゴで生まれた楽器である。
●トリニダードトバゴは、トリニダード島とトバゴ島という二つの島で構成された共和国である。カリブ周辺では唯一石油が産出する場所であった。
●長く英国領で、アフリカなどから奴隷を連れ出し、石油を掘らせていた。当時すでに英国ではTQC管理が進んでいて、労働中の私語は厳重に取り締まわれていた。アフリカ黒人なので、言葉が使えなくても太鼓同士で話などをしかねないので、太鼓も禁止されたそうだ。確かにトーキングドラムというシステムは存在するのではあるが。
●そうした楽しみを全て奪われた彼等の目の前にあったのは、石油を溜め込むためのドラム缶だけであった。「これドツいたら太鼓にならへんやろか!?」と誰かが大阪弁で云った。んな訳ないか。
●ドラム缶の底を叩いて、音階を叩き出して、メッキで化粧をすれば、燦然と輝くスティールパンの出来上がりである。日本で買っても原料三千円のものが、本国から輸入すれば一個20万円以上する。製作に長期間を要するし、調律も相当難しいようだ。
●「ファンタスティックス」の山本亜純さんや明石健司さんは、プレーヤーを増やす運動に加えて、自分達で楽器を作り出す計画も実行に移そうとされて準備を進めておられる。
●ドラム缶をがんがん叩いて、楽器にしてゆくので相当大きな音が出る。相当広い場所でやらないとできないようだ。
●長田区では靴作りや鉄鋼産業が盛んだったが、震災以降中々経済状況もよくならないようだ。こうした取り組みが少しでも産業の振興につながれば面白い。
●彼等の夢は、プレーヤー自身が自作した楽器を使って、2005年に開催される、本国トリニダードトバゴのスティールパンカーニバルに出演することである。
●「ショーロ」も「スティールパン」も日本ではなじみが薄いものなのではあるが、だからこそやりがいや挑戦のし甲斐もあるだろう。小拙も積極的具体的に応援をしてゆきたい。
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