雨のポツリポツリ降り出したバンクサイド。こんなところでミホちゃんとテムズを眺めているなんて…。11時半になっていた。別れ際、ミホちゃんが「イギリス風に」とハグを求める。

 

▲レストランからテムズ
▲Ale in Pie
▲テムズに映るシティの灯
 

 

 「お久しぶりです」とミホちゃん。つもる話はいくらでもある。歩きながらあれこれと。歩行者用の橋でテムズ川を渡る。ミレニアムブリッジと言い、ミレニアムを記念して作られた橋。橋の向こうはテイトギャラリー。昨日来た時に確かにこの橋は見た。ああ、この橋はセントボール寺院とテイトギャラリーをつないでいたのか。

 この付近をバンクサイドという。近くのパブに入る。私は、Steak & Ale in Pie を注文。エールがパイに入っているのだ。昨日グレンに聞いて食べたかったのだが、品切れで食べられなかった。私はその他にビール。ミホちゃんはパスタと白ワイン。ちなみにロンドンでは白ワインをよく飲む。では銘柄はとミホちゃんに聞くと、ええ、そんなのないですよ、と。ホワイトワインと頼むと白ワインを出してくれる。白ワインは白ワインなのだ。ビールは細かく銘柄があるのにねえ。

 テラスで食べたかったのだが、混んでいて座れないので、店内で食べる。平日なのにこんなに混んでるなんてとミホちゃんは驚いている。そのパブを出てバンクサイドを歩く。他のパブで飲もうとするがどこも混んでいるので、ビールをテイクアウトできる店でビールを買い、川べりのベンチに座る。テムズ川の上に、向こう岸のシティの灯が映ってとてもきれい。

 シティというのは、ニューヨークのウォール街と並ぶ世界の金融・商取引の中心地。正確にはシティはロンドン市ではない。ローマにヴァチカン市国があるようにひとつの独立した市。市長もいれば行政府もある。そしてこの市だけに与えられた権限は王室のものはシティは立ち入れないというもの。――と『MASTER キートン』(浦沢直樹/勝鹿北星)第3巻「昼下がりの冒険」で読んでことがある。そんな話をしたらミホちゃんは、ああ聞いたことあります、でも今は変わったって聞いた気がするけど、と。なるほど、何事も変わるものだ。

 川べりのベンチに座っていると涼しい。ロンドンに来て初めて涼しいと感じた。何しろこの日曜日からずっと暑かった。こんな暑さはロンドンでは珍しいと言う。ロンドンに来る前にミホちゃんから「ロンドンは夜とか日陰は涼しいから何か上に着るものを持ってきた方がいいですよ」とメールをもらって、リュックの中にいつもジーンズ地の上着を入れていたのだが、初めて取り出すことになる。雨もポツリポツリと降りだした。

 こんなところでミホちゃんとテムズを眺めているなんて…。ちょっとあやしい気分。

 11時近くになったので歩いてウォータルー駅へ。歩くと15分くらいかかるだろうか。途中に大きな観覧車があった。これもミレニアムを記念して作られたものだそうだ。小雨の中をウォータルー駅に着く。
 11時半になっていた。別れ際、ミホちゃんが「イギリス風に」とハグを求める。かるく抱き締める。

 日本人にはハグの習慣がないので恥ずかしい。よく文化比較論で言われる人と人の間の距離(ディスタンス)の問題だ。以前アメリカにホームステイした時に帰り際、同年代の女性にハグを求められた。その時もとても恥ずかしくて仕草がとてもぎごちなかったことをよく覚えている。

 ウォータルー駅からピカデリーサーカスまでは、ベイカールーラインで一本。ミホちゃんに手を振りながらエスカレーターでプラットフォームの方に降りていくときにもまたちょっとロマンチックな気分になった。何しろウォータルー駅ですからね。「慕愁」という古い名画の舞台になったところでしょ。

 こうして、ロンドンでの私の3日目が終わった

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