この作品の場合、現実がドラマを飛び越えてしまったので、あれが起きないうちに鑑賞できた場合とあれ以降に鑑賞してしまった場合では、明かに印象が異なるだろう。その意味では残念な作品ではあるが、それでもこの作品が持っている良質な部分はそのまま残されている。
死んだ人間が生き返るというあり得ない設定の作品といった誤解を受けやすいのが難点なのだが、実はここがドラマを構成していく上で非常に重要なポイントであるため、事前プロモーション等で十分に説明できない恨みは残った。実際には鑑賞前に思っていたよりも、はるかにキチンと整合性を持ったストーリーであり、けしてファンタジーだけの大アマ恋愛映画というわけではない。
これは多くの人々が最初に受ける印象とは 180度反対の、“終わることなく、命は続いていく…” という高いメッセージ性を持ったヒューマン ドラマである。ここで語られているのは終わりを目指して暴走する絶望的なマッチ レースではない。 あくまでも希望を胸に抱いた一人の女性が、自らの意思で転生していく姿を写し取った再生の寓話である。だから、この作品からはあの『ジョゼと虎と魚たち』のような死臭は漂ってこない。
何度生まれ変わっても、その人と添いとげたいという相手に恵まれることは極めて稀なことだが、もしそういう状況に出会えたなら、人は誰よりも強くなれるだろう。
『テス』('79年 英=仏 監督:ロマン・ポランスキー 主演:ナスターシャ・キンスキー)は、ヒロインのテスが愛していない夫との死んだような毎日を捨て(結局、夫を殺害する)、本当に好きな男との数週間の逃避行の方を選ぶという正真正銘の悲劇だった。“死んでいるようには、生きたくない”という強いモチヴェーションによって選択されるテスと澪の二つの人生。しかし、その差は歴然としている。
テスの選択した人生が、これから何十年と続く無味乾燥な人生とひきかえに選ばれたほんの一瞬の輝きであるのに対して、澪の選択した人生は実はこれが悲劇ではなく、終わりなく連綿と続く再生のはじまりであり、だからこそ彼女にとってその選択は必然であることを感じさせるのだ。
どこまでも肯定的に自分の運命を受け入れ、その“思いに殉じる”すなわち、自分は若くして死ぬということが分かっていてなお、澪がその人生を選んだという点に若い女性の観客はストレートに反応する。それは他人から見れば単なるナンセンスな思い込みでしかないのかもしれないが、その“思いに殉ずる”という行動こそが、妥協と打算に溢れたこの時代に一番忘れられているものなのだろう。
澪が巧の勤める法律事務所の同僚である永瀬みどりに、自分が死んだ後の巧の世話を頼むため、喫茶店で会うシーンがある。ここでの澪の可愛らしさ・いじらしさ。この竹内結子には世のどんな男でも惚れるだろうなぁ…(苦笑)永瀬みどりはほのかに巧のことを思ってはいるが、“巧さんが私を女性として見ることはないと思います”と強く言いきってみせる。
澪が巧のもとに向かう電車の中でしたためている日記。そこには、すべてを受け入れた澪の決意表明のように”今、会いにゆきます”と力強く書かれる。筆者はこのシーンにいたく感動を覚えた。
出演:竹内 結子 中村 獅童 武井 証 浅利 陽介 平岡 祐太 大塚 ちひろ 市川 実日子 YOU 松尾スズキ 小日向 文世
監督:土井裕泰
原作:市川拓司 /脚本: 岡田惠和 /主題歌: ORANGE RANGE
●昨年末に来た時とサービス レベルはまったく落ちていない。この店は凄い! 凄すぎる… 但し、前回レポートにも書いたとおり、ここはお食事を雰囲気を持って楽しむところではなく、食に対するリビドーを大全開、剥き出しにするところであるから、デート コースとしては最悪である。オシャレなブランド大好きおねえちゃん、心臓の弱い人、妊婦の方は遠慮した方が無難だろう。
●ま、なにしろ店内は脂肪の焼けこげる煙が蔓延しており、全ての肉類およびタレにはニンニクが強力に摺り込まれ、頼みもしないモヤシ・キムチ・輪切りのサツマイモ等々、の波状攻撃、さらに異常な高温に苛まれるという最高の悪条件の中で、ひたすら己がリビドーに忠実なものだけが勝利する禁断のスペースなのだからして、半端な気持ちで暖簾をくぐってはいけない。
●今回、われわれ取材班、何とか生還を果たしたが、次回はいよいよヤバイかもしれないな。いやはや“味楽”、この店こそ焼肉史上最強のハードコアであることだけは間違いない。