オフショアにあおられた波しぶきは、容赦なく打ちつけ、顔を上げると視界ゼロに近い。その上、その日はカレントも強かった。海に突き出た構造物の近くは、強い潮流が起こる。押し寄せる波の膨大な水量がまた引き戻される動きと、構造物によって乱された水流が干渉して、危険なテトラにあっと言う間に吸い込まれてしまうような流れや、人力で逆らうことのできないほどの力で沖に押し出す流れができることがある。
遠目には、規則正しいうねりから順に崩れだすきれいな波に見えたし、斜面も整っているように見えたけれども、じっさい入ると、強いさざ波で海面は強く振動していた。印象派の油絵のようだ。遠目には景色や人物がはっきり描いてあるように見えるのに、近くで見ると筆のタッチが渦巻くばかりで、何がそこに描かれているのかわからない。
ばかものが、ばかな目に遭わぬために、陸上の目標をずっと見ながら、どちらに流されているか、パドリングでちゃんと進めているかどうか、どこにカレントの境目があるか、注意深くチェックしなければならず、サイズのわりに、かなり緊張した。
だれもいないという不安もあいまって、ちっぽけなおのれを自然に向かってアピールしようとでも思ったのか、あるいは原始的な祈りにも似た気持ちになったのか、
叫びながらの波乗りとなった。 「乗らせて!」「来い!」 「行くぞ〜!」
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