一人で複数の敵を相手にするときは、壁を背にするのが鉄則だ。そうすれば、後ろから攻撃されることはない。が、ぐるぐる回る囲みを破るのは難しい。それに、ケンに左側を見せて回っているので、武器を持った右手が見えにくい。だが、服の色で、どんな武器を持っているかがわかる。

 ケンは右手の杖、左手の小刀を中段の左右に広げて構え、動きを止めた。心の目で敵の攻撃を察知するのだ。中国服の男たちは、依然としてケンの周囲を回っている、特殊杖や小刀の届く間合いではない。

 白服の男が右手で鎖を回し始めた。走りながら鎖の先についた鉄球をケンに投げつける。ケンは、首を少し動かしてこれをかわした。白服はすぐさま鉄球を引き戻し、再び鎖を回してきた。

 白服が、また鉄球を投げたが、これは一種の陽動作戦だ。男たちも、こんなことでケンを倒せるとは思っていない。

 ケンは反対側の黒服の男に神経を集中するようにした。案の定、黒服はケンの回りを走りながら少しずつ間合いをつめてきた。そして、ケンの真後ろにくるや、針金の投網を投げる。投網はふわっと広がってケンを捕らえようとする。これは、大きく動かなければかわせられない。しかし、下手に動くと双剣と青龍刀の餌食だ。

 ケンはとっさに特殊杖を投網に向かって思い切り投げつけた。投網は、特殊杖にはじかれて床に落ちた。黒服はあわてて投網を構え直そうとするが、そこに、電光石火の勢いでケンが襲いかかった。びしっ、と袈裟がけに小刀を振り下ろされた。男の肩がざっくりと割れ、血が噴出した。うおー、という動物のような声をあげて、黒服は床に倒れ、動かなくなった。

 黒服を倒したところに、白服の男がまた鉄球を投げてきた。ケンは、今度は避けずに、小刀で受け止めた。鎖が小刀にからまると、ケンは両手で小刀を持ち勢いよく鎖を引っ張った。白服はたまらず前のめりになってバランスを崩した。すかさず、ケンは右足から小刀をもう一本取り出し、首筋に一閃。男の首はとれかかり、噴出す血で白い服が真っ赤に染まった。

 あっという間に二人を倒されて、赤服と青服は動きをとめた。ケンは二人を結んだ直線をはずし、二人の男を視界に入れた。赤服の男は二本の剣をいずれも中段に構えている。一方青服は、右手に持った青龍刀を上段に構え、左手で剣先を支えている。二人の中では赤服の方が手強そうだ。

 日本では、刀と剣ははっきりとは区別されていないが、中国では細くまっすぐなものを剣、幅広で曲線状のものを刀という。技は剣の方が格段に難しい。刀は兵卒でも扱えるが、剣は武術の修業を積んだ者にしか使いこなせない。まして、双剣はなおさらだ。赤服の男は、相当な武術家とみて間違いない。

 ケンは左右に小刀を持って、二人の男を見比べた。(やはり、青服を先にやるべきだろう。それには赤服を攻めておかなければ)

 ケンがじわじわと赤服との間合いをつめる。赤服は少しあとずさりだ。ケンはきえぇ、と気合をかけて、赤服に体を向け、大きく一歩踏み込んだ。赤服はケンに気圧されたように後退した。

 青服はケンを追って背後に迫り、青龍刀を振りかぶる。が、それよりも早くケンが右手の小刀を赤服に投げた。小刀が空気を切り裂いて赤服に迫ったが、さすがに達人、手にした双剣で小刀を打ち払った。

 青服の青龍刀が袈裟がけにケンに振り下ろされた。が、一瞬ケンの姿が青服の前から消えた。そう思ったのは青服の錯覚で、ケンは青服の方に向き直って身を沈め、青龍刀の一撃をかわすと青服の腹に左手の小刀を突き立てた。うっ、と青服はうめき声を発し、青龍刀を落とした。ケンは青服の後ろにまわって、背中を蹴り飛ばした。青服は、赤服の足元まで飛んで、つんのめって倒れた。

 赤服が青服の体をかわす間に、ケンは倒したばかりの黒服の男の投網にからまっていた特殊杖を拾い上げた。


 いよいよ一対一だ。

(以下次号)

2008年4月21日号掲載


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●登場人物紹介●
●「神の剣」掲載にあたって●