彼は隣県にある全国的に有名なサファリパークに勤めていた。住み込みで園内道路の整備係をしていたのだ。
「ノロジカのうんこがな」と彼はしばしばいい、サファリパークの縞馬状に斑模様のブルーバードを乗り回していた。敷地のなかに無断で乗り入れて、15号棟の前にいつも堂々と駐車した。
「ミューの群れに取り囲まれたのよ」深夜蒼ざめて帰ってくるなり彼女がそういったことがあった。フロントグラスから、リアヴューミラーから、覗き込む、無表情なせわしい視線。彼は映画のようにハンドルを叩きクラクションを鳴らし。シートを倒し窮屈に躯を伸ばしてなされた、彼と彼女の会話。
「そういうわけでね、……なのよ」
「なるほどな。
 学生時代、アフリカを横断してやろうと思って無茶をしたことがあったよ」
「……して? ……の?」
「ゲリラに間違えられそうになってね」
「………もっと下」
「これ抜いて………」
 ………………。
 ところで僕の夢というのは、夢というには非常に単純なイメージ――ミヤコが握り締めてきた陰茎を湯に浸し、もうもうとたちのぼる蒸気のなかでゆっくりとそれを漱いでいる姿だった。

 あなたはどこでわたしを見ていたの? と彼女は彼の掌を左肩に感じながら訊ねる。彼の太く短い指は痙攣のように規則的にこすりあわされ、そのしゅっという音が神経にさわる。掌は彼女の首すじから肩へつづく部分におかれ、前にたれている指先はTシャツの襟元に爪の長さだけ滑って、鎖骨の盛りあがりを間歇的に外側へ撫でている。
 僕はテーブルの下の彼女の脚ひ左足の先で触れる。向う脛を繰り返し降りていく僕の爪先。彼女はストッキングを穿いていない。僕の灰色のナイロンストッキングが彼女の向う脛の皮膚組織ひとつひとつにひっかかって、右脚の甲まで滑り降りる。
 彼女は腕を上げ、斜めに開いた肘を伸ばして、指先を、彼女には見えない、背後の、彼の短い髪のなかに差しこみ、掌全体で彼の角ばった頭の形に触れながら、指と指の間で毛先を抓む。彼の太い指はTシャツのなかから抜かれ、肩先の丸みを後ろから辿って、腋下の、Tシャツの袖の下が膨らんでいるところに触れ、次いで、平べったい乳房全体を少し盛り上げるようにしておさえこむ。
(以下次号)

2008年3月17日号掲載