早くも <銀ナビ> 第2回目となります。
『寝ずの番』について書いた後、新作映画を劇場で10本ほど観賞しましたが、その中で <銀ナビ> で採り上げる作品を選ぶとなると、これが思ったより大変だったりするのです。なぜなら、劇場観賞作品の中には、私の住む大阪での公開が東京公開から数週間〜数ヶ月遅れる作品やムーブオーバー作品がが相当数あり、折角書こうと思っても多くの地域で既に公開が終了しているということが少なくないからです。また、タイミングはぴったりでも「これは御紹介したいな」と思えない作品というのも、当然ながらあります。
ですから、今回は「どの作品を採り上げようか?」とギリギリまで頭を抱えたものです。
けれど、ギリギリになって見た作品が大当たり! 公開も4月29日から始まったばかりで、正にこのコラムで御紹介するにうってつけの作品に巡り会う事ができたと大きな喜びを感じたのです。
その作品のタイトルは『ロンゲスト・ヤード』。
1974年製作の同名アメリカ映画のリメイク作品です。オリジナル版の監督は男のドラマを描かせたら天下一品と言われた名匠ロバート・アルドリッチ。
【元フットボール選手のクルーという男が金持ち女の車を無断借用した事から刑務所送りになる。収容先の刑務所では、アメリカン・フットボール好きの所長が看守チームの育成に勤しんでおり、前歴を買われたクルーは看守チームの練習台となる囚人チームのコーチをすることになる。ここに看守チームVS.囚人チームのドラマが幕をあける!】
というストーリー。
オリジナル版の主演は、70年代のアメリカ・マッチョイズムを体現し、まさにセックス・シンボルでもあったバート・レイノルズ。今回のリメイク版では、アメリカン・コメディ界のマネー・メイキング・スターとして大人気のアダム・サンドラーが主演し、製作総指揮も兼任しています。
実は、今回のリメイクは、オリジナル版2度目のリメイクとなります。1度目のリメイクは2001年製作の英国映画『ミーン・マシーン』です。「ミーン・マシーン」とは本作に登場する囚人チームのチーム名であり、オリジナル版の英国における劇場公開タイトルでもあるのです。『ミーン・マシーン』では、話の骨格はそのままに、アメフトをサッカーに変更してのリメイクでした。
ここで、リメイクについて少し語ってみましょう。
名作のリメイクは昔からしばしば見られますが、特にこの2、3年のリメイク・ブームは相当なものがあります。発表される企画の大半がリメイクかシリーズ物という有様。ここに苦言を呈する映画ファンは多いですね。
「どうして評価の定まった名作をわざわざリメイクする必要があるのか!? それは名作に対する冒涜ではないか!」
私もそう思います。発想力が枯渇している。企画がないから、過去の作品の安易なリメイクに走るのではないか? ここで問題なのは「安易なリメイク」が多過ぎるという部分です。「魂のないリメイク」が非常に多い。ただ単に「現代のスターを共演させて焼き直しすれば当たるんじゃないの」という思いが企画のGOサインに繋がっていると思わざるを得ない作品が多々あります。
最近だと、ロバート・レッドフォードとポール・ニューマン共演の名作『明日に向って撃て!』のリメイク企画が持ち上がりました。主演予定はマット・デイモンとベン・アフレックでしたが、この企画に対して、レッドフォードは「リメイクする必要などない! どうして評価の定まった名作に泥を塗るようなことをするんだ!! 私は認めない」と公式に発言し、その結果この企画は正式にボツとなりました。
ここで「レッドフォードよ、よくぞ言ってくれた!」という思いももちろんありました。快哉を叫んだものです。しかし、もう一つ、製作を断念した側は「いや、かくかくしかじかで現代に通用するリメイクを考えていて、安易なリメイクではない! 魂のある作品にする!」と言えなかった部分を残念だと思うのです。所詮は「安易な企画」だったのだと。だからこそ説得することもできなかったのだと。そんな作品はいらない。作らなくて正解です。
こういった思いを常々抱いていますから、当然本作に対しても期待していませんでした。ただ、映画(映画に限らずですが)は実際に見てからでないとなんとも言えない。大きな不安を抱いて観賞した次第です。しかし……
面白いっ! 実に面白い作品に仕上がっているではないですか!! 終映後、嬉しさのあまり思わず頬が緩んでしまったものです。
本作は正統派のリメイクで、ストーリーの大筋はオリジナル版と同じです。時代背景や細かな設定を現代に併せて変更していますが、特に大胆な脚色を施しているわけではない。違うのは演出のアプローチなんです。
本作の製作にはMTV FILMSが参加しています。90年代に急成長したあの有名なMTVの関連会社です。そのことが、本作の演出に大きな影響を与えているのは確かです。90年代、主にミュージック・シーンで猛威を振るったMTV演出が本作に大きく採り入れられており、それが実に効果的に作用しているんですね。劇中で使用される楽曲にしてもそう。また、人気プロレスラーや格闘家が多数出演しており、それは、アメフト選手に扮する者としての肉体の説得力を充分に有していて自然。更に若年層に対するアピール度を高めてもいるわけです。これらは実に現代的なアプローチで、新しい息吹を作品に吹き込んでいるわけですね。正に現代的なリメイクのお手本と言えるでしょう。
そして、ここが一番嬉しい点なのですが、現代風のリメイクを志しながら、同時にオリジナル版に敬意を表していることがビンビン伝わって来るのです。オリジナル版で主演だったバート・レイノルズが、本作で重要なキャラクターを演じるために起用されていることからも、オリジナルへのリスペクトぶりが見て取れます。決して「安易なリメイク」ではない。そして、判り易いエンターテインメント作品でもあります。娯楽作品としても一級品です。
日本では興行的なヒットが望めないアダム・サンドラーが主演&アメフト映画ということで、東京では銀座シネパトス、大阪では天六ホクテン座というB級映画の殿堂といえる地味な劇場での公開となり、華々しい宣伝もされていない作品ですが、実際に本作を観賞してみると、もっと扱いが大きくても良かったんじゃないかと寂しく思えるほどです。
とはいえ、公開が始まったばかりの作品ですし、これから公開となる地域もあるようです。扱いが小さいからこそ、こうして御紹介することに意味があるのだと思って、声を大にしておすすめする次第です。「たまには映画館で映画でも……」と思われている方は、本作を選択肢の一つにお加えになられることをおすすめします。
アメフトのルールを知らなくても楽しめる(知っている方がより楽しめるのですが)作品で、老若男女が気軽に親しめるという間口の広い作品に仕上がっています。その証拠に、私が観賞した場内には、オリジナル版を知っている世代・知らない世代の双方がいらっしゃいました。そのどちらもが、オリジナル版から30年以上の時を超えてリメイクされた本作を楽しんでいらっしゃいました。「リメイク」としても楽しめ、「新作」としても楽しめる。これはやはり「リメイクの正しい在り方」だと思うのです。様々な世代・性別の方たちの反応を肌で感じながらリメイク作品を見るというのも <映画館で映画を見る愉悦> の一つだと言えるでしょう。
このようなリメイクなら大歓迎です。そして、面白い映画は世代を超える!!その事実を体感なさってください。
また、映画館でお逢いしましょう!
ロンゲスト・ヤード THE LONGEST YARD
2005/アメリカ/カラー/114分 配給 : ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
監督:ピーター・シーガル 製作:ジャック・ジャラプト 製作総指揮:アダム・サンドラー 原案:ルバート・S・ラディ 脚本:シェルダン・ターナー オリジナル脚本:レイシー・キーナン・ウィン 出演:アダム・サンドラー クリス・ロック バート・レイノルズ ジェームズ・クロムウェル ネリー ボブ・サップ
2006年5月8日号掲載