チャウ・シンチー版の『E.T.』だ。いつも、自分の好きな映画やマンガを自作に取り込み、引用・パロディすることで知られる彼らしい作品と思える。しかし、そこには、やはり彼ならではのメッセージがしっかりと込められている。
香港映画界の大スターであるチャウ・シンチー。日本では2002年のサッカー・ワールドカップに併せて公開された『少林サッカー』(2001年)の大ヒットでいきなりブレイクした感がある。続けて、2005年元旦公開が話題となり、これまた大ヒットした『カンフー・ハッスル』(2004年)でその人気を不動のものとした感がある。
そんなチャウ・シンチーだが、1980年代前半にテレビ・タレントとしてデビュー。1980年代中盤には映画にも進出しているから、キャリアは長い。1990年代に入ると主演作を連発。1992年には香港で主演作が7本(!!)も公開され、その内5作品が年間ボックスオフィスの上位を独占するという前代未聞の快挙を達成。この年は、“チャウ・シンチー・イヤー”と呼ばれ、香港での彼の人気は不動のものとなった。以後、監督業にも進出し、現在に至っている。
しかし、ブレイクまでのチャウ・シンチーは数々の辛酸を舐めた苦労人。決してスイスイと現在のポジションを得たわけではないのだ。仕事がない時期もあったし、その中でいじめや差別を味わい、貧乏も経験した。そのことが本作に活かされている。
笑ってしまうほどマンガチックな貧乏父子と、2人の前に現れるいたいけな宇宙生物“ナナちゃん”が繰り広げる物語に込められているのは、チャウ・シンチーの経験を通した教訓だ。作中で何度も繰り返される どんなに貧しくてもウソと泥棒はいけない というのは、シンチーの父が何度も繰り返し彼に言い聞かせてきた教えだという。当たり前のことのように思えるが、この言葉に反して道を外していく人間は多い。そういう人間をチャウ・シンチーは多数目にして来たことだろうし、そのために馬鹿を見てきたこともあるだろう。しかし、そこで彼は、つられて道を踏み外すことなく、懸命に努力を重ね、そして成功した。そういった経験を通したメッセージが本作の肝だ。「全世界の人々に、このメッセージを伝えたい!」という気持ちの結晶が、一大娯楽作品である『ミラクル7号』。ここには、笑いと涙があり、そしてそれらをすべて包み込む愛がある。
『E.T.』や『ドラえもん』『仮面ライダー』『ポケット・モンスター』などから、美味しいところをイタダキながら、見事にチャウ・シンチーらしさを織り交ぜてみせた。一見するとチープな“ナナちゃん”のデザインだが、しぐさや表情が悶絶するほど可愛い。
主人公父子の貧乏ぶりや、ナナちゃんをいじめる人間たちの心なさが少し過剰すぎるようにも感じたが、家族揃って楽しめるわかりやすさは高く評価。教訓話を、お説教ではなく、エンターテインメントとして差し出す心意気が素晴らしい。このチャウ・シンチーのスタンスが変わらないことを願いつつ、本作を推す。
ミラクル7号 http://www.sonypictures.jp/movies/cj7/
原題『長江七號』