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なんとも心地良い感動を与えてくれる映画だ。エンド・クレジットが、スクリーンを撫でるように下から上へと流れていくのを目で追いつつ、流れる音楽に心を任せていると、ふいに涙がこぼれた。悲しくて涙したわけじゃない。むしろ、とても晴れやか気分だった。この作品と出逢えたことを、心と体の両方が反射的に歓迎していたのだ。
養護施設で育った11歳の少年エヴァンが、ある日、施設を飛び出し、両親捜しの旅に出るという筋立てそのものは使い古されたもので新味はない。こういった場合、近年は往々にして主人公である子どもをこれでもかといじめ抜き、ことさらみじめな境遇に置いたりするドラマ作りが成されることが多い。観客の心に「かわいそう」という感情を植え付け、涙を無理矢理に搾り取ろうというわけだ。しかし、そんなジメジメ・メソメソとした映画は御免である。<感動> は、哀れみから生まれるものではないからだ。ああ、嫌だ、嫌だ。そんな作品だったらたまらないと、鑑賞前は警戒してさえいたほどだったが、これが全くの杞憂で、大変嬉しかった。
主人公のエヴァンは、両親の顔を知らない。写真さえない。しかし、絆はある。<音楽> だ。ロック・ミュージシャンの父とチェロ奏者の母の間に生まれたエヴァンは <絶対音感> という類稀な能力の持ち主。旅の途中、数多くの出逢いを経て音楽家としての才能を開花させていくエヴァンが、やがて奇跡というシンフォニーを奏でるさまは、胸を熱くさせ、真に感動的だ。
天才子役のフレディ・ハイモアが本作でも抜群の上手さ。子どもらしさを失うことなく、難役を演じ切って見せた。加えてエヴァンの両親を演じるケリー・ラッセルとジョナサン・リース=マイヤーズも好演。更に実力派のテレンス・ハワード、芸達者のロビン・ウィリアムズらががっちりと脇を固めていて、演技のアンサンブルもお見事。
子どもが子どもらしくあることで生まれる微笑ましさが、本作を豊かなものにしている上、エヴァンの旅を妨げる大人も、決して悪人ではないところもイイ。皆、それぞれの信念に従って人生を歩んでいるのだ。本作が有する温かみや優しさは、ここから生まれている。心ある作劇に嬉しくなってしまった。撮影・音楽の充実振りも特筆に値する。
そして、何より、このファンタジックでありながら浮世離れしない秀作をまとめあげたのはカーステン・シェリダン。『マイ・レフトフット』『父の祈りを』などで知られるアイルランドの名匠ジム・シェリダンの愛娘だが、決して親の七光りなどではない。実力派の新進女性監督だ。
今週は本作をイチオシとしたい。
奇跡のシンフォニー http://kiseki-symphony.com/
原題『AUGUST RUSH』