台風がやってくる。西から寄せるビッグスウェル。みな言い訳がましく、全国各地の被害状況に同情しつつも、そう状態に陥る。はるかかなたから規則正しく寄せるうねりは、小さい低気圧の波や風のなごりの波と比べると、はるかにパワフルで壮大で美しい。
台風が北緯20度を越えると、うねりが届きはじめる。おだやかな海面に、まとまった何本かの筋がたち、それが何分かごとに繰り返される、遠い台風から届く、グランドスウェルである。最初のうちは初心者でもじゅうぶん楽しめる控えめなサイズである。
台風のたどる道筋によっては、うねりが届かないこともあるし、直撃して大時化の海になることもあるが、今回は南の岸を通って北東に抜けていくルートを通った。
うねりの届いた初日はわたしでも遊べるサイズで、ほどほどに巻かれ、ほどほどにスリリングな思いをし、そして何より、サイズもパワーも不足ない、いい波を楽しめた。
が、話にならないほど荒れるのは必至で、翌日はもうクローズ状態となり、いつもの海はノーサーフとなった。このようなとき、半島よりの岩礁の海が人を集める。『稲村ジェーン』の稲村ヶ崎をはじめとする、台風スポットとして名高いいくつかのポイントがあり、ビーチがクローズするような日には、そういう場所にビッグウェーブを求めて人が集まり、エキスパートたちのセッションとなる。
岩礁の海は海底の地形が変わらないので、とりわけ規則正しく波が立ち、ビッグウェーブに耐え、波の形をホールドできる。マシンウェイブと称される極上の波も、そういう地形でなければなかなか味わえない。
わたしは、そういう場所のひとつにギャラリーに出掛けた。
逗子マリーナという、湘南の瀟洒をきわめたような場所がある。クルーザーが並び、洒落たレストランがあり、白いマンションが立ち並び、多少古びていても特権的なエリアの矜持はまだ備えている。
その洒落た雰囲気は、この際どうでもよく、そこから見える小さな半島の先でブレイクする波と、そこで繰り広げられるすばらしいライディングセッションを見るのが目的である。うねりの向きが合わないのか風がよくないのか、その日は雨も降っていたし、どうやらだれも入っていないようだ。期待外れでがっかりして、引き上げようとしたとき、板を持った二人のサーファーとすれ違った。
これは、と思い海のほうへ引き返す。堤防と手すりの切れ目に、まるで投身自殺めいてビーサンをちょこんとそろえ、二人は遠くでブレイクする白い波のエリアを目指して漕いでいく。
波はなかなか厳しいコンディションだったが、せめて1本乗るのを見てから帰ろうと、小雨に濡れながら、わたしは心の中で声援を送った。
ふと振り返ると、やはりこの台風の波にいてもたってもいられなくなった様子の日に焼けた人々が何人か集まって、やはり同じ方向を眺めていた。
2007年7月23日号掲載
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