人は、そのくらいの短い間なら息を止めていられるはずだし、もともと身体は浮くようにできているはずだし、そもそも足を伸ばせばぎりぎり立てるくらいの深さかもしれないじゃないか。頭ではわかっている。それでも圧倒的な水量が作り出すパワーに、なすすべもないのだ。
ぽかっと、水面に顔が出る。それで安心はできない。ふたたび波に巻き込まれることもある。顔が出たそのチャンスに、とにかく一息。ゆっくり吸い込む時間はない。だから浮かび上がる直前に、鼻からすべての息を吐き出し、口をぱっと開ける。人の身体は、ちゃんと、その一瞬に新しい空気を取り込むように、できている。
板の浮力を頼りにリーシュコードをたぐり、手さぐりで板を抱き寄せ、再び海面に半身を浮かべ、荒い息をつきながら、鼻のつーんとした痛みに顔をしかめながら、そして汚い話、海水まじりの鼻水をずるずる垂れ流しながら、わたしたちは、懲りずにピークを目指して漕ぎだし始める。
だれもが巻かれるのはいやで、苦労して沖に漕ぎだしていくのはごめんで、そこまでマゾヒストではないのだけれども。
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