ケンのすぐ前では、長身の厳つい男と猿のような小柄な男が向かい合っていた。仲間の間では、みんな本名ではなく、コードネームで呼ばれている。長身の男の名はムサシ。宮本武蔵にあやかって名付けられたものだ。ムサシは幾つかの流派の剣術を修行したが、なかでも本家本元の武蔵同様、二刀流を得意としている。その一撃は木刀の片手打ちでも岩をも砕くほどの破壊力を秘めていた。
小柄な男の方はサスケ。もちろん猿飛佐助にちなんだものだが、この男の本名や経歴は誰も知らない。忍法の腕前からして、相当な修行を積んできたと思われるが、師匠、流派はケンにも明かしていない。
サスケは天井を歩く男といわれている。人間の足には吸盤などついていないので、天井を逆さになって歩けるわけはない。だが、サスケにとっては不可能なことではない。それには、まず壁に向かって走る。壁のところに来ると、スピードを殺さないように小刻みに壁を蹴って、天井まで駆け上がる。今度は駆け上がった勢いで逆さになって天井を走る。これは、遠心力を利用した技だが、こんなことが可能になるのもサスケの並外れた身軽さがあってのことだ。
ムサシは二本の木刀を手にしている。右手の大刀は中断に、左手の小刀は上段に構え、少しずつサスケとの間合いを詰める。一方サスケは背中に刀を帯びているものの、まだ鞘に収まったままだ。中腰気味になって、素手でムサシと対峙している。
ムサシが間合いを詰める。サスケが下がる。ムサシがまた間合いを詰める。サスケがまた下がった。そしてだんだん壁際に追いつめられた。
が、ムサシが一歩踏み込もうとした瞬間、サスケが胸から二本の十字手裏剣を取り出し、ムサシの顔面めがけて投げた。ムサシがそれを左手の小刀で打ち払った。さらに一歩踏み込んで、大刀を振りかぶり、サスケの脳天に振り下ろした。
サスケは勢いよく壁まで飛び下がって、大刀をかわした。次の瞬間、壁を蹴ったサスケの身体が中を飛び、背中の刀を抜いて空中からムサシに斬りかかった。ムサシは二本の木刀を十字に構えてこれを受けた。サスケが空中を一回転して反対側に着地し、また睨み合う状態になった。二刀流剣法と忍法との息がつまるような実戦稽古であった。
ジャンヌは木製の薙刀を構えて、これも木製の槍を手にした男を前にしている。男のコードネームはタイガー。傭兵として世界の戦場を回ってきた男で、激しい攻撃が虎に例えられたのであろう。
ジャンヌは長い髪を小さくまとめ、鋭い目でタイガーを見据えていた。
2004年10月11日号掲載
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