薙刀と槍はどちらも長柄だが、用法はかなり違っている。時代的には薙刀は槍より古く、源平合戦などで大いに使用された。弁慶のような剛椀の大男が振り回すと、一振りで三人、四人の敵をなぎ倒す威力がある。だが、薙刀はどちらかといえば個人戦用の武器。時代が下がるとともに、戦場ではだんだんと用いられなくなった。ただ、護身用としてはその後もすたれることはなく、主に婦人用の武器として武道訓練などに使用された。
これに比べ、槍は集団戦でより効果を発揮する。戦国時代には槍部隊が大いに活躍した。槍を使うには十数人の槍足軽が横一列になって槍先をそろえて構える。これが所謂「槍衾(やりぶすま)」で、これで敵の突進を食い止め、騎馬武者を突きたてる。この集団戦法に対しては、いかなる武芸者でも一人ではとうてい太刀打ちできるものではない。
だが、一対一となれば話は別だ。槍の攻撃が単純で直線的なのに比べ、薙刀は変幻自在。緩く、あるいは鋭く弧を描きながら面、胴から足のすねまで、突くことも斬ることも可能だ。薙刀の攻撃は防ぎにくいのだ。
ジャンヌが薙刀を下段に構えた。この構えから、胴を突き上げるか、あるいは一歩踏み込んで、すねをなぎ払うか。じりじりと間合いを詰めながら、薙刀を小さく突き上げるように動かし、相手を挑発する。
タイガーは、ジャンヌの気迫に押され気味だ。だが遥かに年下の、しかも女を相手に下がるわけにはいかない。
「イヤァーッ!」
間合いに詰めるジャンヌの胸めがけて、堪り兼ねたように槍を突いた。彼女は半身になってこれを軽くかわす。
今度はジャンヌの薙刀が突き上げられ、タイガーの下腹を狙う。タイガーが槍の柄で薙刀を払った。
ジャンヌが一歩下がって薙刀を大きく振りかぶり、美しい弧を描いてタイガーの頭に振り降ろされた。タイガーは慌てて槍を頭上に持ち、防御の構えをとった。一瞬薙刀の動きが止まり、新たな弧を描いてタイガーのすねを打った。タイガーがよろけたところ、再び薙刀が頭部に振り降ろされ、額の前で止まった。
ジャンヌの見事な一本勝ちだ。
「やめ!」
訓練を見ていたケンが、大声で終了を告げた。「今日の稽古はこれまで」
十人が一斉に構えを解き、張りつめていた空気がたちまち和らいだ。男たちが汗を拭い、雑談の輪が出来た。
しかしケンだけは相変わらず厳しい目であった。
2004年10月18日号掲載
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