道場の隣は会議室で、そこに全員が集まった。会議室といっても、ただ話をするだけの場ではない。そこは情報センターともいうべきスペースであった。壁の一面には三十台の液晶モニターが設置され、アメリカ四大放送網をはじめ、海外の主要な放送がいつでも受信できる。反対側の壁面には、最新のコンピュータが並べられ、世界中のネットワークに接続が可能である。ケンは奥多摩山中にいながら、世界の情報を得られるようになっていた。
ケンが口を開いた。
「用件は言うまでもない。内閣調査室の山岡という男から、駐EU大使誘拐事件解決の依頼を受けた。そしてその男は私の前で死んだ」
事件のあらまし、山岡の依頼内容など、手短な説明だが、集まった『神の剣』のメンバーの理解は速かった。
「依頼を受けた以上、仕事はやるとして、問題はなぜ男が死んだのか、だ」腕組みをしながらムサシがつぶやいた。
「ケンさん、男の死因はわかっているのか」
「心臓が止まっていた、が」
「じゃあ病死か」
「いやそうとは限らないだろう」
「他殺もあり得るわけか」
「そうだな。病死と考えれば事は簡単だ。私と会っているときに、たまたま心臓発作を起こしたということだ。だがなムサシ、調べたところ山岡には心臓に持病など無かった」
「それじゃあやっぱり他殺か。でもどんな方法でやられたんだ。毒殺か」
「遅効性の毒を盛られれば、ちょうどここに来たときに効いてくるかも知れない。しかし、山岡の体からは何の毒物反応も示さなかった」
「そうなると、やはり病死と考えるしかないかなあ」
ケンとムサシが顔を見合わせた。
「いや、そんな筈はない。絶対に他殺だ」
サスケも話に加わってきた。
「人為的に心臓麻痺を起こさせたに違いない。かつて旧ソ連時代にKGBが西側のエージェントにやったやり方だ」
ムサシが隣の席のサスケの顔を覗き込んだ。
サスケは得意になって話はじめた。
「方法は至って簡単だ。靴の先に針を付けて、街中で信号待ちをしているエージェントの足を蹴っ飛ばす。それで終わりだ。針には特殊な心臓麻痺を起こす薬が塗ってあるから、蹴られたエージェントは、後になって突然心臓が止まってしまうんだ」
「そうかそういう手があったな」ケンがうなずいた。
「三年殺しの技なども考えられるんじゃないか」
色白で細身の若い男が口をはさんだ。表向きの職業はダンス教師のサイゾウと呼ばれている男だ。忍法、特に煙を利用する術を得意としている。
2004年10月25日号掲載
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