いつの間にか、ジャンヌの影がケンとひとつになっていた。腕を組んで歩き、そして向かい合った。たくましいケンの腕がしなやかな体を抱きしめ、唇が重ねられた。
が、そのとき、広場の角に停車していた車が急発進してケンとジャンヌの方に突進してきた。
「危ないっ」
と叫ぶとともに、ケンはジャンヌを強く押した。ジャンヌは押された方向に空中を飛んで、両手をついて着地した。そして石畳の上を回転しながら車から離れた。
ケンはジャンヌと反対側に横っ飛びし、車をかわした。車には運転手の他、助手席に一人、後部座席に二人居た。ケンをひき殺すのに失敗すると、疾走する車の中から男たちが拳銃を撃ってきた。ケンは転げ回って銃弾を避けた。
車はUターンして、再びケンをめがけて猛然と突っ込んできた。助手席と後部座席の男がまたしても拳銃を撃ってきた。
転がりながらケンはポケットからパチンコ玉ほどの鋼鉄球を取り出して男たちに向かって投げた。ケンが礫(つぶて)として使っているもので、殺傷力はさほど強くない。だが、至近距離から当たれば、相手の戦意を削ぐ程度のダメージは与えられる。
変則的な動きで銃弾をかわす一方、ケンの礫は、男たちの顔面を正確にヒットした。男たちは苦痛のあまり、思わず拳銃を落として顔を押さえた。
グランプラス広場に残っていたわずかの観光客が、異変に気が付いて騒ぎ出した。「警察だ、警察を呼べ」という叫び。女の金切り声。近くのレストランからも「何事だ」といいながら人々が駆けてきた。
それを見て車はケンを狙うのをあきらめ、猛スピードでグランプラス広場を離れた。
「ケンさん、大丈夫」
ジャンヌが駆け寄る。
「ああ、俺は平気だ。お前こそ大丈夫か」
「ええ、でもこわかったわ」さすがのジャンヌも突然の襲撃にはショックを受けたようだ。
「弱気を出すな。武芸の精神を忘れるんじゃないぞ」
「そうね。でも何で私たちのことがわかったんでしょう」
「そうだな」
と言っただけで、ケンは黙った。ケンの動きは全て敵に伝わっているようだった。
2004年12月27日号掲載
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