中国服の男がムサシと睨み合いながら少しずつ後ずさりして、神社の境内に誘った。ムサシがこれを追った。森の中と違って、障害物のない境内では三節棍を扱いやすい。

 男は、今度は小刻みに突いてきた。顔面、胸、腹と速いテンポで連続して突きをみせた。ムサシは大きく間合いをとってかわした。が、男が棍を振りかぶり、ムサシめがけて振り下ろすと、節がはずれて中の鎖が伸びた。棍は鋭く伸びてムサシの左肩を直撃した。

「ウッ」肩に激痛が走り、ムサシは小刀を落とした。男は棍を引き戻し、節をはめて大きく振りかぶった。脳天を打ち据える構えだ。

「ムサシ、危ない」

 ケンが中国服の男に石つぶてを投げた。男はボクシングのスウェイバックのような格好でつぶてを避けた。その間にムサシは小刀を拾って中段に構えた。

 それから、また息詰まるような攻防が続いたが、三節棍の長さと速い動きにムサシは押され気味だ。

 だが、戦いが続くうちに、三節棍の男の動きが徐々に鈍くなってきた。三節棍は強力な武器だが欠点もある。それは、大きい動作が必要なため、スタミナを消耗し、長時間戦えないことだ。演武では、五分が限界といわれているが、男はもう十五分も戦っている。恐るべき体力というべきだが、それもそろそろ限界に近付いたようだ。息づかいが徐々に荒くなり、ムサシにもそれがはっきりとわかった。

 節がはずれ、三節棍がスッと伸びてきた。ムサシが小刀で受け止めると、つなぎ目の鎖が小刀にからまった。男は棍を引く。だが、からまったまま外れない。もう一度力を入れて引くが、やはり外れない。そして、息を吐いて力を緩めた瞬間をムサシは見逃さなかった。

 大きく踏み込んで大刀を振り下ろした。電光石火の一撃が男の脳天に炸裂し、頭がい骨が割れる鈍い音がした。男はそのまま数秒間立ちつくしたが、やがてどうっと後ろに倒れ、そのまま動かなくなった。

「ムサシ、大丈夫か」

「ああ、ケンさん。ちょっと肩をやられたがな」

 ムサシは右手で左肩を押さえた。

「それにしても強敵だったな」

「あんたが来てくれなかったら、俺の方がやられるところだった」

「ところで、この男は何者だ」

「わからん。あんたがヨーロッパに行ってから二日に一度はここの見回りをしていたが、留守中に爆破されちまって、このとおりさ。犯人はわからん。そこで何かつかめるかと思って見張っていたら、この男が現れたということだ」

「とすると、この男は爆破の効果を確かめに来たか」

 ケンは足元に倒れている男に目をやった。

「それで、地下の方は」

「ああ、そっちは大丈夫だ。道場も通信設備も、まったくの無傷だったよ」

「それはよかった。地下が無事なら表の方は何とでもなる」

 と言ったものの、惨状は目を覆うばかりだ。

 三節棍の男は犯人の一味に違いない。だが、誰が何のために本部を攻撃したのか。

 それだけではない。ブリュッセルのグランプラス広場での襲撃、それにジャンヌにからんできたというパリのシャルル・ドゴール空港のチンピラ。

 もしかしたら、これらは同じ一味の仕業かもしれない。そうだとすると、ケンの動きはいつも敵に筒抜けということになる。こちらの動きが何故わかるのか。

「ケンさん、ヨーロッパの方はどうなんだ。誘拐犯人の目星はついたのか」

「それが全然だ。何の糸口もつかめん」

「そうか、サスケの行方は」

「そっちの方も、いかんのだよ」

 ケンは首をすくめた。

 ケンは、焼跡に残った秘密の入り口を開けた。

「今ジャンヌとサイゾウが動いてくれている。何とかきっかけをつかんでくれるんじゃないかと期待しているんだがな」

 そう言いながら、「神の剣」地下本部に降りて行った。ムサシも肩を押さえながらケンに続いた。

 

2006年9月18日号掲載


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●「神の剣」掲載にあたって●