「はい、僕がこの学校のミステリアスボーイ、白崎恋です。よろしく。こっちはリアリストな弟、愛」
緊張してたどたどしい美静と対照的に、恋は飄々と片手を上げて自己紹介した。愛も丁寧に会釈する。
「美静です……あの、よろしくお願いします」
恋にまっすぐ見つめられ、俯いた美静が初心に感じるのは、菫より少々長いスカートのせいかもしれない。緩く結んだ三つ編みといい、皺一つないセーラー服といい、学校案内に載っていそうな女子である。
「ダーリン、ホラー大好きで、その線の話にすごく詳しいの。美静ちゃんの件も、きっと解決してくれると思うわ」
「ハニーの言う通り。なにせ僕は、七浜学園の七不思議を解決して、警察から表彰された男だからね。なぁ、愛?」
愛はうなずいて微笑んだ。訝しげな美静を信用させる笑顔だ。依頼人を落ち着かせるのが、愛の重要な役目。
そしてこれが、恋の職業欄に書けない「本職」。
「不可思議な事件解決専門の探偵」だった。
「七浜学園の七不思議」とは、七浜学園という私立高校の生徒が七人、立て続けに変死した怪奇事件である。事件発生当初――白崎兄弟は、今いる綺羅風高校に入学したばかりだった――は、現場にまったく証拠がなく迷宮入りと世間が騒いだが、七浜学園の学園祭に行った恋がその日のうちに解決してしまった。結局、七不思議は猟奇的な女性教師による殺人であったが、学園の腐敗した体制も、他の教師の怠慢も、芋づる式に暴かれ、恋は時の人となった。その後の恋の探偵活動は表ざたにならなかったが、探偵業を一回で止めたわけではない。むしろ始めたのだ。七不思議どころではない謎に満ちた事件を一任されることも増えた。それらが報道されないのは、大っぴらにできない重い事件ばかりだからだ。
「……で、そろそろお話、聴かせて頂きましょうか、ね」
ふと何の前触れもなく、恋が切り出した。
愛は、「七不思議」以降の恋の軌跡とでも言うべきか、解決してきた事件について説明した後、恋と菫と自分の座る椅子を用意した。こういう、恋と依頼人の話し合いが始まるまでのお膳立てが愛の仕事である。これさえ終われば、黙っていれば良いだけ。
恋は気さくで愉快な男だが、どうも人嫌いを醸す時がある。無邪気な仮面で覆い隠しているが、愛にはわかる。恋は生きている人間に興味がないのだ。当然、依頼人の心配なんてこれっぽっちもしていない。推理の力を貸す承諾に感情があるとすれば、退屈しのぎの感謝だけだ。
ただでさえ人生の崖っぷちにおり、救いを求めて手を伸ばしている依頼人がそれに気づけば、その手を踏みつけられて転落してしまうような思いをすることにもなりかねない。
そこで愛の緊密な心遣いと人のよい笑みで、恋の機嫌を損ねず依頼人とも円満にことを済ませるのが、お決まりとなっていた。
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