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4.
昼間の話から、醜悪なものだという認識があることは明らかであるのに、それでも彼は僕の女性器を見た。灯りの下に女性器を晒し、そこを指で検分するように一時探っていた。僕は、固まったように身動き一つせず、その検診のような行為をじっと耐えていた。
しかし、本当に耐えるべきは、それから後その時々の、性行為だった。
検分が終わると、僕は彼がきっと何か言ってくれるものだとばかり思っていた。とにかく肯定してくれると思っていた。しかし、それは僕の思い込みだったようだ。
彼は、見終わると、何も言わず性行為に及んだ。
彼は、優しい。
そう、無言は優しさから来ているのだ。きっと、そうなのだ。
そろそろ、夫が果てる頃合いだ。
計ったわけではないが、いつも決まっている。
今度、何回腰を振るのか数えてみようか。
そう思っていると、腹の上で、逝く、逝く、ああ逝くと、大仰に声を上げながら体をぷるぷると震わせて、最後だけは性器と性器をぶつけるように腰を振り、射精した。息を乱しながら夫が被さって来た。優しくて淡白な愛撫とは裏腹に、夫は大声を上げて、初めて牡の本能を剥き出しにし、射精する。
夫は、一体何処に精をぶちまけている積りなのだろうか。汚い女性器は、嫌いな筈だ。
重い。
今夜初めて、思い切り体重を掛けられて、そう思っていた。
思いが通じたのか、夫は体を離すと、ティッシュを引き抜いて自身を拭った。そして、僕の股間にも、ティッシュを宛がってくれた。また、元の静かな夫に戻り、パジャマを着ると、おやすみと僕に挨拶をし、早々と眠りに付いた。
僕は、裸に剥かれたまま、性器にティッシュを挟み込んで、天井を見つめる。
あの時父は、天井を見つめながら、僕の顔を思い浮かべてくれていたのだろうか。
思いはまた、そこへと回帰する。
僕は今、父の顔をありありと思い描くことが出来ることに、喜びを感じている。きっと、何年経ったところで父の記憶が消えることはない。例え、臨終のとき母にだけ感謝の気持ちを表していたとしても、構わない。母と違い、いつも僕を受け入れくれた父だから、怨んだりしない。否、僕は母の言葉など、信じていない。
あの辛い夢を見れば、最後には必ず父が、ありがとうと言ってくれる。
そして、その後には、優しい夫の愛撫が待っている。
股間のティッシュで、丁寧に夫の吐精を拭う。執拗に、何度も何度も拭う。
僕は徐に足を開くと、清めた場所に指を這わせる。乳首にも指を宛がい、摘んでは撫でる。次第に尖ってきて、先端がこりこりと指に触れ始めた。強く摘むと、じんとした。
目を閉じて、指の動きを速めると、僕の蜜なのか、夫の吐精なのか、ぬるりと指に纏わり付いてぴちゃぴちゃと音を立てた。僕はまた、父の臨終に思いを馳せた。立会ったドクターの、あの丸い尻が性行為のように果てしなく動く様と、その下でバウンドする父と、夢の中、父の上で腰を振り続ける僕とを重ね合わせていた。父が、僕の下で揺れている。父もまた、腰を振っているかのようだ。押し殺すように息を吐きながら、高みへと急いだ。喘いでいるのは、僕なのか、父なのか。
僕の名を呼ぶ、父の声が聞こえた気がして、僕も父を呼んだ。
「パパ……。」
夫の優しい愛撫の後に、誰憚ることなく父を思いながら、僕は静かに極めていた。
たくさんのコンプレックスで成り立っている僕は、優しい夫にいつも感謝して止まない。
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