見ると、草原の真ん中に灰色の石積みに幾つも煙突の立った白い窓枠の建物とともに、渋い色合いの室内や真鍮と白い陶器のバスルーム、さまざまな料理の写真が載っている。
「すずちゃん、あいかわらずしぶいねえ」
要は照れながら言う。
会社の保養所や学校の寮が点在し、天体観測のメッカとして知られるつつましやかでストイックな高原地帯だったその地が、風格のある別荘地だった軽井沢とともに、ソフトクリームのようなハラジュク的な場所に変貌を始めたばかりのころだった。
「だって、せっかくカナ君と行くのなら、と思って」
<カナ君と> というところが意味ありげに聞こえたのは、要の思い込みだろうか。
要は生返事をすると、猛烈にノートを書き写し続けた。
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八ヶ岳の麓のだれもいない夕暮れの草の丘をほどけながら転がり落ちていく毛糸玉を二人で見送って――
「こんな簡単なことでいいのかなあ」
「いいの、いいの」
ブリテッシュカントリー調のプティホテルで、要とすずねは二つの夜を過ごした。ラベンダーの香とちょうどよくぱりっとしたシーツに包まれて、明け方まで及んだそれは、神さびた「まぐわひ」に近かったかもしれない。
体を重ねながらも要は、甘い思い出の地についてきた水色の女の子が後悔の衣を脱ぎ捨てて二人にまとわりつくようして見守っている気配を濃厚に感じていた。けっしてもう不思議な現象が起こることはないし、部屋の住人にちょっかいを出すようなことはないだろうけれども、彼女はどうやら二人のそばにいつくつもりらしかった。ただしすずねにはとりあえず言わないでおいた。
(了)
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