すずねは、毛糸玉を雛のように抱きしめて、まん丸い目からぽろぽろと涙をこぼしていた。
「なんでだろ。うれしいの。カナ君にはわかるのね、あの女の子の気持ちが。私にはわからなかった。どうすればいいのかわかっても、それがなぜなのか、私にはわからなかった。でもカナ君にはわかる。私がいったい何のために、こんなことをしているのか」
「……ああ。そうみたいだ」
ごく自然に、要はすずねの肩を抱き寄せる。
気がつけば、部屋にたちこめていたあの水色の気配は、掃除機に吸い取られたように消えてなくなっていた。
要は、胸の中に浮かんだイメージを、自分の言葉で口にしてみた。
「短い恋。けっして憎むでもなく、恨むでもなく、ただ思い入れがあまりにも食い違っていたがために、不幸だった恋。あのセーターに、あまりに深い想いが込められていたから、自分への後悔が残ってしまった……」
「彼女は、どうしたの?」と、すずね。
「さあ、わからない。でも、病気か事故か、いまはこの世にはいない」
「相手の人って、大家の息子――よね」
「たぶん」
すずねは、要の手をさっと肩からはずし、それから、あらためて首にかじりついたかと思うと、耳元でいたずらっぽくささやいた。
「ね。今度、その男、見てみようよ」
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