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    text/税所たしぎ

 

 

 

 

 

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 桃子は、田添のうちの子ではありません。両親は本当の父母ではありません。でもちっとも悲しくないんです。はっきり知らされる前から、ずっともらわれっ子のような気分はしてたし、そのころはすごく悲しかったけど、いまは本当のママとパパを知っています。桃子の本当のママとパパは、百合子のママとパパなんです。本当のママは、数年前にガンで亡くなりましたが、亡くなる前に、少しずつ少しずつ桃子に真実を教えてくれました。

 百合子はなんにも知りません。わたしと百合子は、異母姉妹です。桃子のほうがちょっとだけお姉さんです。そして百合子の本当のママは私のママ、百合子はエリママの不倫の子なんです。エリママは、百合子のママがうらやましくてうらやましくて、自分と最愛の人佐久田のおじ様の子供を、立派なお城のお姫様のように幸せにしたくて、生まれたばかりの私たち二人をとりかえっこしたんです。なかよしだからとりかえっこ。ベッドの上で、まるで童話かおとぎ話のように、びっくりするような真実を楽しそうに話す百合子のママ。実は桃子の本当のママ。そして素敵な佐久田のおじ様が桃子の本当のパパ。

 百合子のママが、そのことに気づいたのは、いつなのかしら。ショックじゃなかったのかしら。桃子はその話に大ショックでした。でも、本当のママからゆっくりゆっくり優しく聞かされたお話は、夢物語のようで、だんだんそれに慣れてきてしまったみたいです。

 内緒の話、すごい秘密、絶対守らなければならない真実。それを心の中に持っていることが、いつかあなたの役に立つと、本当のママは教えてくれました。桃子は、みんなが思ってるよりずっと強いから、大丈夫、この秘密は守り通せます。こんな秘密、悪い子ぶるときもあるけれども本当はまっすぐな性格の百合子には絶対守れないと思います。でもエリママは百合子よりはすごいと思います。桃子は本当のママに聞かされるまでちっとも気づかなかったのだもの。ただデキが悪いから、とろいから、もらわれっ子みたいに感じるのだと思っていたし、佐久田のおじ様とエリママの長い愛人関係にはほんとうにびっくりしました。

 でもそのことを知ってからは、桃子にはいろんなことがよく見えてきました。エリママはいまも若々しくて自信家で朗らかなすばらしい女だけど、間違った人生を送ってしまった人なんだということがいまならよくわかります。その間違いを精一杯生きるエリママ、それを全部背負って桃子を愛してくれた本当のママ。そして亡くなる前に桃子にだけ伝えてくれた秘密。

 一度だけ、その秘密がばれそうになったことがあるそうです。でも、幸運なことに、みんなにそれがばれる前に、その秘密に気がついた人にはバチが当たって転げ落ちて死んでしまったそうです。その秘密をほのめかした次の日に。いったいそれはどういうことなんでしょう。思い当たる事件の思い出もないではありません。

 桃子は、そのことを深くは考えません。亡くなった本当のママが、最後まで守った秘密ですもの。

 

(了)