いまでも無感動な表情は相変わらず。
「ただいま帰りました」
声も若い娘にしては落ち着いている。外見とあまり合っていない。カラーと潮焼けでほとんど化学繊維のような金髪、日焼け止めを塗っているという本人の弁が信じられない黒さ。いまふうに細く整えられた眉。億目がちの切れ長の目が鋭い。蛇のような白旗の目と似ていないこともない。それを指摘するとかなり嫌がる。激しいスポーツをこなすとは思えないぐらい華奢な体。
特に肩から腕にかけてのなだらかな線はあまりサーファーらしくない。
「どうだった?」
「潮動いてあれからサイズ上がってムネくらいの来てるよ」
「もうすぐ割れなくなるべ」
「まだいけるよ」
陽子は、ハヤトと会話しながら、体をよじらせてかぶり式のウエットを器用に脱いでいく。色あせた水色のビキニの上半身が現れる。脱ぐと、二の腕は強靱に引き締まり、体格のわりに豊かな胸の上部にはうっすらと胸筋が盛り上がっている。その胸元にはクジラの尾の小さなペンダントがぶら下がっている。千葉に住んでいる憧れの女性プロサーファーから譲り受けたもので、陽子はとても大事にしている。
「さっき浜でどっかで見たことあるネエさんに話しかけられた」
「なんだって?」
「『気持ちよさそう、わたしもやってみたい』っていうから、フラッグでスクールやってますよって教えといた」
「冷やかしで海の人口増えるのもなあ。むやみに営業すんなよな」
「なにいってんの、商売じゃん」
白旗は二人の会話を聞きながら、なんの根拠もなく、陽子に話しかけた女というのは、さっき店をのぞきこんでいた娘ではないかという気がしてならなかった。
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(以下次号)
2005年9月26日号掲載
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