アタゴオルは猫の森

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【オレたちはな、トコトン生きるために生まれてきたのよーっ!】

【一人なんて面白くも楽しくもないぞお! 一緒に笑ったり、一緒に怒ったり、一緒に悲しんだり、一緒に遊んだりできない星なんて……んなもんタダの石っころだっぺよお!!】

【完全じゃないから面白いんだ! 完全じゃないから素敵なんだ!】

【たとえどんな凄まじい力がやってきても、それほ本当に砕くことができるのは、笑顔の中にしかないんだ】


 ここに挙げたのは、いずれも、先日劇場で観賞したフルCG長編アニメーション映画『アタゴオルは猫の森』中のセリフです。

『アタゴオルは猫の森』。聞けば、30年も続いている長寿マンガの映画化とのことですが、恥ずかしい事に、私はとても有名だというこの原作マンガの存在をつい最近まで知らなかったのです。

 今年の7月頃だったと思うのですが、私がいつものように映画館で新作映画のチラシを収集していた時、本作のチラシに出会いました。 <満面の笑顔を湛えた黄色いデブネコが、右腕を天に向けて元気一杯にジャンプしている> という、とっても可愛い絵柄のそのチラシにすっかり心を奪われてしまった私は、すぐさま本作を観賞ラインナップに加えたのです。前知識もなければ、アニメーションに造詣が深いわけでもない私ですが、一目チラシを見ただけで魅了されてしまったんですね。帰宅後、mixiを通じて本作に関する情報を集めることにしました。すると、すぐさま、数名の知人・友人が「本作はますむらひろしというマンガ家の代表作であり、30年以上描き続けられている人気シリーズなんです」「このデブネコはヒデヨシという名で、本作の主人公です」「大好きなマンガですよ。おすすめです」と教えて下さいました。

 その後、原作マンガの購読を考えましたが、グズグズしている間に本作が公開。結局、私は原作を読むことのないまま、映画版を観賞することになったわけです。

【2本足で歩く猫たちと人間とが共存する <アタゴオル> と呼ばれる世界が舞台。緑に溢れ、平穏な日々が長く続いているアタゴオルは、今が丁度年に一度のお祭りの日。そのオマツリの最中に、トラブルメイカーのデブネコ:ヒデヨシが、偶然手にした禁断の箱を開けてしまう。途端に、箱の中には、大昔に封印された植物の女王:ピレアが……ピレアは世界征服の野望を抱いており、アタゴオルの住民たちを次々と植物に変えていく。アタゴオルを植物で満たし、静寂の世界を構築しようとしているのだ! そんなピレアを封印できるのは植物の王:ヒデコだけ。ピレアと共に姿を現したヒデコ。しかし、ヒデコは、アタゴオルで一番の力を持つ者を父として成長しなければピレアを封印する力を手に入れることができないのであった。そんなヒデコが父として選んだのは、よりによって問題児のヒデヨシ……アタゴオルは一体どうなってしまうのか?】

というストーリー。

 アニメファンにはおなじみだという西久保瑞穂が監督を担当。主人公のヒデヨシの声を人気声優の山寺宏一があてている他、平山あや・内田朝陽・谷啓・小桜エツ子・谷山浩子・牟田悌三・佐野史郎・田辺誠一・夏木マリらといったバラエティーに富んだ面々が声優として出演しています。また、本作の音楽を、声優としても特別出演している石井竜也が担当しているのも話題となっているようです。

 さて、原作物の映画化が大流行している昨今。当然のことながら、観客は原作既読者と原作未読者の2者に分かれるわけですが、私は先述したように後者。作品内容に関する予備知識も殆どないままに観賞したわけですが、これが予想していた以上に素敵な作品でありました。本作を観賞して、大いに笑い、大いに泣き、大いに楽しむことが出来たのは、紛れもなく <幸福> と言えるでしょう。

 しかし、原作のファンの方々からは、本作に対して否定的な評価をされる方も少なくないようなのです。とはいえ、原作のファン、それも大の付くほどの熱狂的ファンがついている作品が映像化された際、こういった状態はよく見られるものではあります。当たり前のことですが、例え同じ作品であっても感想・評価は人それぞれ。ファンであればあるほど、評価のハードルが高くなるのも必然のことであると言えるでしょう。これは最早、人気原作物が抱える宿命とも言えるわけです。

 ほぼ真っさらな状態で観賞した私は、当然、アタゴオルという世界にも、本作に登場するキャラクターにも、思い入れと言えるものがありません。そのため、原作と、映画版である本作とのどこがどう違うのか、或いはどこがどうそっくりそのまま同じなのかといった比較が全く出来ないのですが、しかし、僕はここで思います。原作となる作品と、その映画化作品の関係というのは、そっくりそのまま同じでないといけないのだろうか? いや、そうではないでしょう。そもそも受け手の数だけの独立した感性が存在する以上、その全てを満足させることなど不可能なことなのです。映画化に合わせて大胆な脚色が施されることはままあることですし、それは一つのアプローチであると言えます。仮に、原作を完全に再現したとして、全ての受け手が満足するとも思えませんよね。それ以前に、観客全員が望む一つのスタイルなどというもの自体、存在しないのではないかと思われます。

 そう考えた時、<原作物> という括りはどれほどの重要性を持つのでしょう? 無論、原作のファンの方々にとって、それはすこぶる重要な要素であるのでしょうが、見た目や語り口の違いにこだわり過ぎるのもまた、閉鎖性を伴ったものではないのか、などと思ってしまうのです。

 となると、何が重要なのかというと、それはやはり <作品に流れる心> の部分なのではないでしょうか。目に見えるものが仮に全て原作と同じであったとしても、その心の部分がポッカリとがらんどうであっては、それはやはり失敗作なのではないかと。

 その点、本作はその <作品に流れる心> がしっかりと描かれています。老若男女問わず楽しめるであろう広い間口と、決して小難しくなく非常に判り易い物語を有した本作には、その全体を通して、決しておしつけがましくないメッセージに溢れています。そのメッセージを端的に表しているのが、冒頭に記したセリフの数々であるわけですね。ポジティブな生命讃歌に満ち満ちたこれらのセリフを耳にしたとき、私の心が即座に反応しました。これを感動と言います。

 物語の展開そのものはオーソドックスで、展開の予想も容易につくタイプの作品でありますが、80分の上映時間の間、私は片時も退屈することなく本作にノセられ、豊かな感動を噛み締めながら明るくなった劇場を後にしました。上映後、小学校低学年と思しき男の子が、お父さんに向かって涙目のまま「面白かった!」という言葉を発するのを目の当たりにした時、私は「うん。面白かったよね。良かったよね」と、彼の素直な感情表現に激しく同意したものです。映画鑑賞中、僕は彼と同じ目線で本作を観賞していたのだなあということを実感し、観客の年齢差をものともしない本作の佇まいに嬉しくなってしまったのです。

 本作には、作り手が観客に伝えようとする心がしっかりと宿っており、そして、それを非常にわかりやすい形で表現している。私はその点を何よりも高く評価したいのです。確かに「原作とココが違う、アソコが違う」という部分もあるのでしょう。思い入れというのもまたかけがえのないものだと思っています。しかし、そこにとらわれ過ぎることなく、この少年のように、ポジティブかつ素直な姿勢で作品と向き合い、その心の部分を受け取ることこそ有意義かつ幸福なことなのではないかと感じ入った次第です。

 この秋も充実したラインナップが揃っている映画界ですが、その中でも本作は家族が揃って楽しめる一本としておすすめしたいところ。貴方もアタゴオルで大きな感動に包まれてみませんか?

 また、劇場でお逢いしましょう!!

アタゴオルは猫の森 http://www.atagoal.com/

泣かないで。  
この星を救えるのは笑顔だけだから。

2006/81分/日本/角川ヘラルド映画
監督:西久保瑞穂 原作:ますむらひろし『アタゴオル外伝 ギルドマ』(メディアファクトリー刊) 脚本:小林弘利 音楽監督:石井竜也 CGディレクター:毛利陽一 CGプロデューサー:豊嶋勇作 声の出演:山寺宏一/平山あや/内田朝陽/谷啓

2006年10月23日号掲載

< フラガール(2006/11/6) | ストロベリー・ショートケイクス(2006/10/9)>

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