世界中で大ヒットを記録した『幸せのちから』(2006)のガブリエレ・ムッチーノ監督とウィル・スミスが再び手を組んだ感動のヒューマン・ドラマ。
【心に深い傷を抱えた男ベン・トーマス(ウィル・スミス)は“ある計画”を進めていた。7人の見知らぬ他人に、彼らの人生を変える贈り物渡そうというのだ。ただし、誰でも良いというわけではない。ベンは、彼らがその贈り物にふさわしい条件を満たしているかどうかを見極めるため、正体を隠して調査を始める】
というストーリー。
計画の目的とは?
贈り物の中身は?
なぜ7人でなければいけないのか?
贈り物にふさわしい条件とは?
ベンが抱える心の傷の原因は?
このように、本作には様々な謎が散りばめられている。それらが次第に明らかになっていく過程には謎解きというミステリーの面白さがある。
しかし、本作は賛否両論を巻き起こすことだろう。主人公の生き方に対して反発を感じる方も多いだろうし、判りやすい作品でもないからだ。そのため、誤解が生じる可能性が大いにある。
重要なのはテーマだ。観客が目にするのは、あくまで“ある一人の男の人生=一つのケース”に過ぎず、そして本作は、その是非を問うものではない。本作のテーマは、ベン・トーマスという男の行動・言動のその先にある。
ある一組の父子を巡るハート・ウォーミングな物語だった前作『幸せのちから』は、物語の起点が“失業による貧困”という目に見える問題であった。そのため、ただ“観る”だけでテーマをすんなりと理解することができた。その点、大変判りやすい作品であったと言える。しかし、『7つの贈り物』は、物語の起点が“心の傷(トラウマ)”という目に見えない問題である。そのため、ただ“観る”だけではテーマが掴めない。本作がスクリーンに映し出す状況や登場人物のセリフは、言わばジグゾー・パズルのピースである。そのパズルを完成させるためには“観る”以外にもう一つ、“考える”という作業が必要となって来る。
近年、画やセリフですべてを語ってしまう映画が多過ぎるように感じる。判り易いのは結構だが、不自然な描写やセリフで一から十までを説明されると、観客の自由度が低くなってしまう。重要なのは、その画やセリフが作品にとって必要であるかどうかであって、過剰な説明は蛇足なのだ。
その点、本作には不要な描写がない。そのため、一見すると起伏に乏しく淡々とした作品に見えるが、決してそんなことはない。登場人物の行動や言動について思いを巡らせることで、初めてその根底にあるドラマが浮き上がってくるのだ。ただ漫然と観るだけでは本作の深さは理解できない。“考える”ことで初めて本作の全容が明らかになって来る。映画と向き合い、映画と対話すること。その豊かさが本作にはある。
ただし、この作品は、キリスト教に根ざした物語であるため、日本では正しく理解されるのはなかなか難しいだろう。そのため、多くは語らないが、重要なポイントだけ明かしておきたい。
ベン・トーマスに投影されているのはキリストだ。本作は“贖罪”についての物語であり、ベンが歩むのは、ローマ総督ピラトの官邸から十字架ゴルゴダの丘に至る道のり・ヴィア・ドロローサ(=悲しみの道)であり、キリストが背負った巨大な十字架と茨の冠は、ベンの心の中で彼を苦しめているのだ。
ベンとエミリー(ロザリオ・ドーソン)とのラブ・ストーリーに傾き過ぎたため、“7”という数字が少々ぼやけてしまったのが惜しいが、ガブリエレ・ムッチーノ監督の丹精で上品な演出と、ウィル・スミスの心を込めた熱演が見もの。ロザリオ・ドーソン、ウディ・ハレルソンといった演技派俳優のサポート振りも素晴らしい。
心の目でご覧いただきたい秀作だ。
7つの贈り物 http://www.sonypictures.jp/movies/sevenpounds/
2008年 アメリカ 123分 配給:ソニー・
ピクチャーズ エンタテインメント
監督:ガブリエレ・ムッチーノ
出演:ウィル・スミス、ロザリオ・ドーソン、ウディ・ハレルソン、バリー・ペッパー、マイケル・イーリー ほか
【上映スケジュール】
2/21(土)〜
東京:丸の内ピカデリー、渋谷シネパレス、
新宿ピカデリー、新宿ジョイシネマ、新宿
バルト9 ほか
大阪:梅田ピカデリー、梅田ブルク7、TOHO
シネマズ梅田、なんばパークスシネマ、TOHO
シネマズなんば ほか
京都:MOVIX京都、TOHOシネマズ二条、イオンシネマズ久御山、ワーナー・マイカル・シネマズ高の原
兵庫:神戸国際松竹、MOVIX六甲、109シネマズHAT神戸、OSシネマズミント神戸 ほか
ほか、全国一斉ロードショー