締め切りギリギリにこの原稿を書いている。
この4日間は大阪アジアン映画祭2009と通常の一般劇場公開作品の取材が重なって、てんやわんやだった。つい先ほど、全ての取材が終わってホッと一息といったところだ。まだ、取材した内容を原稿にまとめるという作業が残っていて、それはそれで決して楽な作業ではないのだけれど、まあ嵐は過ぎたという感がある。
ただ、それにしても映画を観ていない。いや、全く観ていないというわけではないのだが、取材する作品を鑑賞するのが精一杯。この項でタイミング良く御紹介出来る作品が無いのである。よって、新作映画の紹介は来週までお待ち頂きたい。いやはやなんとも、申し訳ない限りである。
といったところで、今回は大阪アジアン映画祭と、その関連企画の取材から得た雑感について書くことにする。
大阪アジアン映画祭は、“見たことのないアジア映画”がコンセプト。オープニング作品に『マッハ!』や『トム・ヤム・クン!』のプラッチャヤー・ピンゲーオ監督最新作『チョコレート・ファイター』?荅比?襦???????(←映画史上最強のアクション・ヒロイン映画である。面白い! 5/23〜全国ロードショー)を、クロージング作品に『女帝[エンペラー]』『戦場のレクイエム』のフォン・シャオガン監督最新作『誠実なおつきあいができる方のみ』と、映画ファンには名の知れた監督の作品が選ばれたが、それ以外は、このコンセプト通りのセレクションとなった。
特に、インドネシア、タイ、フィリピン、マレーシアの映画を観る機会は、世界で最も多くの国々から映画を輸入・公開している日本においても少なく、貴重な機会である。筆者としても、これらの国々の作品を鑑賞したことは少ない。そのため、取材に向けて各国の映画史や、映画の現状を調べてみた。これが思った以上に大変な作業で難儀したが、実に有意義であった。
タイで初めて映画館経営を始めたのが日本人であることや、台湾に映画を紹介したのが日本人であることを知った時は、日本人であることを誇りに思えた反面、日本占領下のインドネシアで、時の日本政府が現地労働者に強いた過酷な労働状況を描いた『Romusha(労務者)』(1973)の公開に、日本大使館や現地の企業が難色を示し、圧力によって公開中止に追い込んだという事実を知った時はやりきれない気持ちにさせられたものだ。恥ずかしい限りである。
政治が映画の公開・上映を妨害するケースは多くあり、現在でも中国やインドネシアなど、検閲の厳しい国は多い。昨年、日本でもドキュメンタリー映画『靖国 YASUKUNI』が大きな話題を振りまいたが、あれはあくまで異例の事態だった。
そこで、「常に厳しい検閲が存在している国であっても映画は作られているのだ!」という驚きを孕んだ頼もしさが胸に湧き上がってくる。自国で上映出来る見込みが限りなく低くても、映画を撮る人々が世界中にいるのだ。なぜか? “映画”という表現がそれだけの力を持っているからである。この力を“映画力”と呼ぼう。
その“映画力”の持ち主が、言語や文化の壁を越えて一同に介した討論会=アジアン・ミーティングも大変興味深い内容だったし、個々の作品もそれぞれの面白さや感動に満ちており、我が映画への興味はこれまで以上に高まっている。
映画を通じて、私たちは色々なことを知ることができる。映画環境に恵まれた日本の映画ファンは幸せだ。その幸せな環境を存分に活かしていただきたいと願うばかりである。