正月映画の公開も大詰めを迎え、ホッと一息ついたと思ったら、もう新春第二弾作品の公開が続々と始まっています。正月というかき入れ時が済むと、映画興行界も少し落ち着きそうなものですが、今年は全国公開作品から単館作品まで依然として華々しい作品が待機していて、正に嬉しい悲鳴といった状況。毎年この時期は、来月開催の米アカデミー賞に向けて、その有力候補と目される話題作の公開が徐々に盛り上がりを見せていく時期でもあり、今年も『ディパーテッド』『不都合な真実』『ドリーム・ガールズ』『幸せのちから』といった作品がお目見えしてきます。邦画界も、大作の『どろろ』や、良作の予感が漂う『魂萌え!』『幸福な食卓』などがお目見えする予定で、片時も目が離せません。
そんな中、私は昨年末公開作品を含めて、年初から映画三昧。『硫黄島からの手紙』『王の男』『鉄コン筋クリート』『海でのはなし。』『あるいは裏切りという名の犬』『悪夢探偵』『それでもボクはやってない』など、個人的に気に入っている作品も多く、幸先の良いスタートが切れたと言えるでしょう。
●『不都合な真実』
来る米アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門の最有力候補と目されている1本。 <一瞬だけアメリカ合衆国大統領になった男> =アル・ゴアが、自身のライフワークとして長年に渡り取り組んでいるのが環境問題についての啓発運動です。彼は、全米各地で環境問題に関する講演会を実施し、地球が瀕している危機を力説。その脅威を1人でも多くの人々に知らしめ、意識の向上を図ろうと粉骨砕身しています。本作は、そんな彼が行っている講演会の模様をまとめ、更にアル・ゴアに密着しながら収めたインタビューを随所に挟み込んだ作品となっています。
なるほど、本作は評判に違わぬ、実に見応えのある秀作ドキュメンタリー映画でした。アル・ゴアの講演会における語り口は実に巧みで思わず唸ってしまいます。簡潔かつ明瞭なスピーチには思わず舌を巻いたもの。シリアスな内容でありながら、ユーモアを交えることも忘れず、聴講者を決して退屈させない講演会の模様は必見です。アニメーション映像を織り交ぜたり、膨大な研究・調査に基づく資料を呈示したりと、様々な角度から環境問題を語るアル・ゴアの姿には、真摯な姿勢が如実に表れており、同時に聴く者を引き込むカリスマ性にも溢れています。彼の巧みなプレゼンテーション術は、我が国のサラリーマンにとっても大変参考となるのではないでしょうか。
本作は、【スクリーンで見る講演会】といった感触を有しており、一口にドキュメンタリー映画といっても、マイケル・ムーア監督が過去に発表した話題作:『ボウリング・フォー・コロンバイン』や『華氏911』、あるいは原一男監督によるドキュメンタリー映画の金字塔:『ゆきゆきて神軍』『全身小説家』などとは異なり、カメラが監督の目となり、物事の真相を暴きだしていくという【ドキュメンタリー映画のアクション性】は感じられません。どちらかというと、教育映画・啓発映画と呼ばれるタイプのもの。いかにも <お勉強> といったイメージ漂う作品で、そのため、背筋を伸ばして観賞に挑んだものです。しかし、これがなかなか面白いのです。決して、思わずワクワクしてしまうようなダイナミズムに溢れているわけでもなく、作中で人物が予想外の行動・言動に出るという意外性(それは娯楽性にも繋がるわけです)に富んでいるわけでもないのに、思っていたほど堅苦しくもなく、退屈することもありませんでした。
こういった作品を見ると「映画には本当に色々な形があるなあ」と思わずにいられません。ポップコーン片手にゲラゲラ笑いながら見るコメディ作品も、しみじみとした心温まるヒューマン・ドラマも、手に汗握るアクション大作も、映像美に酔いしれるアート作品も、事実を活写したドキュメンタリー映画も、全て映画というフィールドの中に存在しているわけです。その豊かな混在を喜ばしいものとして噛み締めた次第。一口に映画といっても、その内部の多様性には目を見張る物があり、だからこそ私は映画に魅了され続けているのだと、本作を観賞してふとそんなことを思いました。
さて、本作について、最後にもうひとつ書いておきたいことがあります。
皆さんは、映画観賞料金割引サービスを御利用されたことがおありでしょうか? 一番有名なものだと、毎月1日の映画サービスデーがあります。これは毎月1日(年に12回)は、殆どの劇場で誰でも1000円で映画を鑑賞できるというもの。私もよく利用します。しかし、割引サービスはこの他にも数多く存在しているのです。最近だと「高校生3人以上で同一作品を鑑賞すると1人1000円で入場できる」という【高校生友情プライス】と銘打たれたキャンペーンが張られているほか、クレジットカード呈示による割引や、個別の劇場独自のサービス(ポイントカード制や会員制など。20:00以降の上映は1200円というサービスを実施している劇場も多いです)もありますね。こういったサービスは、我々観客にとっては大変有り難いもの。当日券が概ね1800円という日本の映画興行において、こういったサービスは大歓迎ですよね。「塵も積もれば山となる」(私の場合は「安く見れば、観賞本数も増える」)の精神で積極的に利用して頂きたいなと思います。
また、映画割引というのは、上記したような日付・時間帯・観賞人数・劇場によるサービスだけではなく、作品固有のユニークな施策も時折見られます。例えば、1月27日に公開が開始されるオムニバス映画:『ユメ十夜』では、2種類の割引サービスを実施。その2種類の割引サービスというのは「夏目漱石バージョンの1000円札を持参すれば、それ1枚で観賞できる」&「着物着用の場合は1300円で観賞できる」というもの。こういったユニークな割引サービスというのも、調べてみれば以外に多くあり、これまでにも「浴衣着用の来場者は1000円で観賞できる」「中学生なら1円で観賞できる」などといったものや、作品にちなんだ特定の職業の方はその証明書提示で割引サービスが適用されるなどといったものもありました。
今回御紹介した『不都合な真実』も、本作ならではの割引サービスが実施されています。本作は、1月20日より全国公開が始まっていますが、その上映期間中、【テトラパック presents エコサンデーキャンペーン】という割引サービスを展開しています。内容は【本作の上映期間中 <1/21・1/28・2/4・2/11> の4日間(いずれも日曜日)は誰でも500円で観賞できる】というもの。サービス実施劇場は、TOHOシネマズ六本木ヒルズ・TOHOシネマズ川崎・TOHOシネマズ名古屋ベイシティ・ナビオTOHOプレックス・TOHOシネマズ二条の全国5館のみという限定規模なものですが、繁忙日である日曜日をサービス実施日とし、料金を破格の500円に設定したというのは、画期的な試みとして大いに歓迎したいところです。
私は、1/21にこのキャンペーンを利用して500円で観賞してきたのですが、実は、当初、私は本作の観賞を予定していませんでした。他に見たい作品も多くあるため、そちらを優先しようと思っていたのですが、本キャンペーンの存在を知り「500円なら見よう!」と思うに至ったという次第です。このように、このキャンペーンは「当初から観賞を決めていた人」にはもちろんですが、それ以上に「観賞予定がない、或いは作品の存在も知らないという人」にとっての効果を見込んでいるように思えます。このキャンペーンの結果によっては、このような割引サービスが他の作品でももっともっと増えるかも知れません。旧態依然として日本の映画鑑賞料金形態に風穴を開けるという部分でも、大変意義のある挑戦をしている作品と言えるでしょう。そのため、私は本キャンペーンの利用者であるばかりでなく、その結果にも大いに注目したいと考えています。
新作映画が500円で観賞できるというまたとない機会です。本作にご興味のなかった方でも「この料金なら見てもいいかな」と思われる方は大勢いらっしゃるのではないでしょうか? お近くに本キャンペーンの実施劇場がございます方はこの機会に是非御利用なさてみては如何でしょう。
今回は、『不都合な真実』という作品そのものをおすすめするだけではなく、各種割引サービスの存在のお知らせをテーマにお届けしてみました。皆さんの映画ライフの一助となれば幸いです。
それではまた劇場でお逢いしましょう!!
不都合な真実> http://www.futsugou.jp/
地球の裏切りか?2006/アメリカ/UIP/監督:デイヴィス・グッゲンハイム 製作:ローレンス・ベンダー/スコット・Z・バーンズ/ローリー・デヴィッド 編集:ジェイ・キャシディ/ダン・ス ウィエトリク 音楽:マイケル・ブルック 出演:アル・ゴア
2007年1月29日号掲載