ユメ十夜

お久しぶりです。相変わらず精力的な映画鑑賞に努めていますが、先週は、心の底からおすすめしたいと思える作品にほとんど出逢うことができず、唯一、「これは!」と思った『ラッキーナンバー7』も、鑑賞したのが公開最終日ということで、急遽一週のお休みを頂きました。

 というわけで、3週間ぶりの当コラム。今回御紹介するのは『ユメ十夜』というオムニバス映画です。

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 オムニバスという言葉は、元々、ラテン語で <乗り合い馬車> のことだそうですが、今日では <一つのテーマやコンセプトに添った独立した作品を一つにまとめたもの> とされています。一度の鑑賞で様々な作品を味わう事ができ、それは万華鏡を覗き込んだ時の感覚にも似ていますね。

一口にオムニバス映画といっても、その在り方は様々です。

・特定の地域を舞台と作品集(『ニューヨーク・ストーリー』『パリ・ジュテーム』)
・一人の作家による複数の原作を、一人の監督が映画化した作品集(『怪談』『ゲンセンカン主人』)
・一人の作家による複数の原作を、複数の監督が映画化した作品集(『乱歩地獄』)
・あるテーマに添った作品集(『世にも怪奇な物語』『セプテンバー11』)

などがその代表的なものとして挙げられるでしょう。

 さて、今回御紹介する『ユメ十夜』ですが、原作は夏目漱石の「こんな夢をみた」という有名な書き出しから始まる連作短編集:『夢十夜』です。その名の通り、夢にまつわる10本のエピソードが収められいるこの小説を、11人の監督(第七夜のみ2人の監督が共同で担当)が映画化しています。言わば、オムニバス小説のオムニバス映画化というわけですね。

 11人の監督の顔ぶれは、大ベテランから新進気鋭の若手まで、実にバラエティに富んだものになっており、それぞれの監督がそれぞれの持ち味を存分に活かして、良い意味でバラバラな印象を与えてくれます。全編併せて40頁、1エピソード当たり僅か4頁ほどという、ごくごく短い原作を、ある者は原作に忠実に映画化し、またある者は原作のエッセンスを抽出しつつ、全く自由な映画化に挑んでいるといって雰囲気で、これぞオムニバスの真骨頂といえる面白さ!

 以下、エピソード毎に監督と出演者を紹介しながら、一言添えて御紹介します。

第一夜 (監督:実相寺昭雄 出演:小泉今日子、松尾スズキ、寺田農、他)
先日、 急逝された実相寺昭雄監督。 本作が映画としては遺作となります(現在公開中の『シルバー假面』が本当の遺作ですが、こちらは元々OV作品として製作されたもの) 脚本を担当した久世光彦も本作が遺作となりました。原作の味を残しつつ、「これぞ実相寺ワールド!」と言える個性を存分に発揮してくれています。

第二夜 (監督:市川崑 出演:うじきつよし、中村梅之助)
ずっと『夢十夜』の映画化を熱望していた御大市川崑が、念願叶って登板。大ベテランらしい落ち着いたつくりで、原作に忠実な仕上がり。モノクロ風の落ち着いた色調が格調の高さを醸し出しつつ、サイレント映画風に仕上げています。ライティングの美しさは正に名匠の名に相応しい仕上がり。

第三夜 (監督:清水崇 出演:堀部圭亮、香椎由宇、他)
Jホラーを世界的に広めた清水崇が監督。ずっと以前に原作を読了して以来、「第三夜を映画化したい!」と願い続けていたそうです。ホラー風味の怪異篇は、清水監督にうってつけの題材と言えるでしょう。

第四夜 (監督:猪爪慎一 出演:山本耕史、菅野莉央、品川徹、他)
老人とわたしの物語だった原作を大胆にアレンジし、神隠しという新たな要素を加えて映画化しています。どこかつげ義春の『ねじ式』を想起させる不条理感が面白く、郷愁に溢れた浮遊感も見事。

第五夜 (監督:豊島圭介 出演:市川実日子、大倉孝二、他)
原作から、<女> <白馬> <ニワトリ> <妖怪> といったモチーフだけを取り出し、自在に脚色・映画化しています。そのアレンジぶりに一瞬唖然としましたが、現代風のリ・イマジネーションとして楽しめるでしょう。

第六夜 (監督:松尾スズキ 出演:阿部サダヲ、TOZAWA、石原良純、他)
夏目漱石の世界で2ちゃんねる用語が飛び交うとは!! 私が鑑賞した際、最も観客の笑いを誘っていた作品です。TOZAWAが披露する素晴らしいアニメーション・ダンスに圧倒されながら、大いに笑わせて頂きました。音響・編集に魅せられます。

第七夜 (監督:天野喜孝、河原真明 声の出演:Sascha、秀島史香)
本作品中、唯一のアニメーション作品です。アニメならではのイマジネーションの広がりとキャラクター性が、夏目漱石の世界に新たな息吹を吹き込んだといった風。

第八夜 (監督:山下敦弘 出演:藤岡弘、山本浩司、他)
これも原作を自在に脚色した一編です。山下敦弘らしいシュールな世界。『ダウンタウンのごっつええ感じ』に、本作と酷似したコントがありました。漱石文学と現代コメディは相性が良いのかもしれません。

第九夜 (監督:西川美和 出演:小川たまき、ピエール瀧、他)
本作の紅一点は、『ゆれる』で大注目されている西川美和。女性らしい情感と毒に満ちた一編に仕上がっています。お百度参り、赤紙、着物…… 日本映画ならではの感触に満ちた秀作です。

第十夜 (監督:山口雄大 出演:松山ケンイチ、本上まなみ、安田大サーカス、板尾創路、石坂浩二、他)
山口雄大監督&漫☆画太郎脚本という、ナンセンス・ギャグでならした名コンビが好き放題に暴れています。らしさ爆発の暴走ぶりが、意外な収穫と言える結実を見せており、これはなかなか面白い! 松山ケンイチの美青年ぶりに、場内からは黄色い歓声も。 そんな彼があんなことや、こんなことに……ある意味、本作をトリにもってきたのは大正解と言えるでしょう。

 以上、10編ですが、本作はオープニングとエンディングで、漱石の生きた時代と、その 100年後である現代を繋ぐエピソードが用意されており、全体を挟み込む構成になっています。このエピソードを監督したのは、第五夜の監督でもある豊島圭介。

 個人的に特におすすめしたいのが、第一夜・第四夜・第六夜・第九夜・第十夜ですが、人それぞれ好みは違うもの。貴方のお気に入りはまた違う作品かも知れませんね。「私はこう見た」「いや、私はこう見たよ」と、鑑賞後に映画仲間同士で会話の俎上に乗せて楽しむのも、これまた一興ではないですか。

 これだけ味の違う作品が一つのくくりでまとめられているというのが、オムニバスの面白さであるのです。一度に色んな味が楽しめる。まだまだこれから公開となる地域もあるようです。貴方のお気に入りはどの作品ですか?

 是非、探してみて下さい。きっとお気に入りの作品が見つかることと思います。

 また、劇場でお逢いしましょう!!

ユメ十夜 http://www.yume-juya.jp/

 漱石から100年目の挑戦状

監督: 実相寺昭雄/市川崑/清水崇/清水厚/豊島圭介/松尾スズキ/天野喜孝/河原真明/山下敦弘/西川美和/山口雄大 原作:夏目漱石『夢十夜』 脚本:久世光彦/柳谷治/清水崇/猪爪慎一/豊島圭介/松尾スズキ/山下敦弘/長尾謙一郎/西川美和/山口雄大/加藤淳也 脚色:漫☆画太郎「第十夜」 出演:小泉今日子/松尾スズキ/うじきつよし/中村梅之助/堀部圭亮/香椎由宇/山本耕史/菅野莉央/日向はるか/市川実日子/大倉孝二/阿部サダヲ/TOZAWA/石原良純/藤岡弘/山本浩司/緒川たまき/ピエール瀧/松山ケンイチ/本上まなみ/石坂浩二/戸田恵梨香

P.S.
前々回に告知させて頂きました『9.11-8.15  日本心中』上映会ですが、御陰様で補助席まで出るという大盛況でした。ありがとうございます。続きまして、今度は『朱霊たち』という劇映画の大阪公開を広報としてお手伝いさせて頂く事になりました。ご興味のございます方はHPをご覧下さい。大阪公開は十三第七藝術劇場にて秋頃の予定です。

『朱霊たち』公式HP
http://www.shureitachi.com/indexJP.html

2007年2月19日号号掲載

< エクステ(2007/3/5) | 不都合な真実(2007/1/29)>

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