バイオハザードIII

映画好きクリエイターたちの恩返し!

 お久しぶりです。前回の掲載から2週間経ちました。のんびりと充電させて頂いての再開となります。

 さて、今回は11月3日に全国ロードショーとなる『バイオハザードIII』を御紹介しましょう。

 言わずと知れた、日本が世界に誇る大ヒットテレビゲームの映画化第3弾です。公開直前ということで、前2作がテレビ放映されたり、廉価版DVDがリリースされたりしています。このシリーズは完全なストーリー連続物ですから、是非1作目から順に御覧下さいね。

 まずは基本設定をお伝えしておきましょうね。

【舞台は近未来のアメリカ。巨大企業:アンブレラ・コーポレーションは、<ハイブ> と呼ばれる極秘の研究施設でバイオ兵器: <T-ウイルス> の開発を進めていた。そんなある日、何者かの手によって施設内に T-ウイルスが散布されてしまう。 T-ウイルスに感染した生物はアンデッドと化し、次々と凶暴化。その猛威は瞬く間に広がり……】

 決して目新しいものではありませんね。非常に分かり易いプロットです。
オーソドックスなプロットを用意し、随所に謎と見せ場を散りばめながら、観る者をグイグイと引き込んでいくというのは、大衆娯楽映画の真髄とも言えます。基となったテレビゲームの知識がないと楽しめないとか、小難しい専門知識が必要というわけではありません。そういう間口の広さがまず嬉しいところ。

 さて、本シリーズはアンデッドがバンバンと登場します。アンデッド。直訳すると不死者ですね。本シリーズは、明らかにジョージ・A・ロメロ監督によるゾンビ三部作の影響下にあります。

 TVゲーム版1作目のTVCMを覚えているという方、いらっしゃるでしょうか? 日本製のテレビゲームのCMであるのに、主演は当時大人気の若手俳優だったブラッド・レンフロという贅沢なものでした。そのCMの演出を手掛けたのが、ゾンビ映画の第一人者であるロメロだったのです。そればかりか、映画版1作目の監督もロメロが担当するという話もありました。こちらは実現しませんでしたが、ゲームの段階から、ロメロのゾンビ映画を意識した作品であるということは明らかなわけです。

 そして、この映画版シリーズ3作品の展開も、ロメロのゾンビ3部作(最新作『ランド・オブ・デッド』があるので、ロメロによるゾンビ映画は現在4作品。現在5作目の『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』が製作中なのですが)によく似ているのです。

 ロメロのゾンビ映画3部作を示しておきましょう。

 ●第1作:ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド
      (1968年・原題:『NIGHT OF THE LIVING DEAD』)
 ●第2作:ゾンビ
      (1978年・原題:『ZOMBIE:DAWN OF THE DEAD』)
 ●第3作:死霊のえじき
      (1985年・原題:『DAY OF THE DEAD』)

 作を重ねる毎に、ゾンビの数が増殖し、人間の数が減少。1作目はアメリカの片田舎でゾンビ大量発生するだけでしたが、3作目では地球全土にその被害が及んでいるという設定でした。『バイオハザード』シリーズも全く同じパターンをなぞっているのです。1作目の舞台はハイブという研究施設。
限定された空間が舞台でした。2作目はラクーンシティという街が舞台。3作目である本作では砂漠と化したアメリカ全土を舞台としています。ゾンビの侵入を防ぐために、建物の周囲に柵を設けているという部分など、『死霊のえじき』そのままで、古くからのホラー映画ファンにはたまらないところ。

『バイオハザード』シリーズには、上記のように、ロメロ・ゾンビ映画の影響が明らかにあります。しかし、本シリーズのウリというのは、そういったマニア受けする部分だけではありません。本作は <アリス> という若き美女が大バトルを繰り広げるという、手に汗握るアクション映画でもあります。
従来のホラー映画の多くは、ヒロインがとことん追い詰められ、絶叫に次ぐ絶叫の末、命からがら逃げ延びるという展開がほとんどでした。あの有名な『ハロウィン』も、『悪魔のいけにえ』も、『13日の金曜日』も、『スクリーム』も、みんなそうでした。主人公以外の男女は全員が惨殺され、ヒロインが散々な目に遭いながら、なんとか生き残るという展開が王道でした。そういったヒロインを指す <スクリーミング・クイーン(絶叫の女王)> という言葉まで生まれたほどです。ホラー映画におけるヒロインは、ただただ追いかけられ、恐怖と絶望の淵に叩き落されます。それを見て楽しむという、多分に嗜虐的な構造があったといって間違いありません。

 そこに新しいヒロイン像が誕生しました。 <戦うヒロイン> です。その決定打となった作品とはなんでしょう? 映画好きの方でしたら、恐らく同じタイトルを思い浮かべるのではないでしょうか。そう、リドリー・スコット監督の出世作である『エイリアン』(1979年)です。シガニー・ウィーバー主演によるこの作品は、世界中で大ヒットし、人気シリーズとなりました。現在で4作品が発表されています。これまでの女性は、徹底的に虐げられる存在でした。それが自ら銃器を手にとり、男性に勝る大バトルを繰り広げたのが『エイリアン』の新味だったのです。『エイリアン』のヒロインであるリプリーは、アクション・ヒロインの元祖といって良いでしょう。

『エイリアン4』では、リプリーのクローンが登場。『バイオハザードIII』ではアリスのヒロインが登場します。こういった部分を一つ一つ検証していくと、私の主張が決して的外れでないことがおわかり頂けると思います。

 というわけですから、『バイオハザード』シリーズはロメロによるゾンビ3部作と、『エイリアン』4部作の影響下にあるわけです。1970・80年代に青春時代を過ごしたクリエイターたちが、ゲーム版『バイオハザード』を作り、そして映画版『バイオハザード』を作ったということ。

 ここで「なんだパクリかよ……」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
その思いも決して的を外しているわけではありませんが、ここは <オマージュ> と受け止めてあげて頂きたいと思います。『バイオハザード』シリーズにはロメロに対するリスペクトの念や、『エイリアン』に対する愛が溢れていますからね。これは映画好きのクリエイター達による <映画への恩返し> なのです。

 そして、『バイオハザード』シリーズが面白いのは、しっかりと2000年代の映画に仕上がっているからです。特に1990年代に、映像技術(CG技術など)は格段の進化を遂げました。その進化を、過去の名作に対するオマージュにたっぷりと注ぎ込んでいるのが、本シリーズの面白さ。既に使い古された感のある物語を、最新技術によって <最先端の映画> として見せてくれる。ここを私は大いに歓迎したいところです。

 この『バイオハザード』シリーズ。毎回監督が代わります。1作目の監督は、当時新進気鋭と言われたポール・W・S・アンダーソン。2作目の監督は新人のアレクサンダー・ウィットを抜擢。そして、3作目となる本作では、もうベテランと言っていいラッセル・マルケイを起用しました。

 ラッセル・マルケイ。1953年オーストラリア生まれの54歳。1980年代にミュージック・ビデオ界の寵児と言われ、やがて映画界に進出。『ハイランダー』シリーズで一躍人気監督となった現代映像派監督の元祖と言って良いでしょう。本作が2000年代初の劇場用映画となり、お久しぶりのスクリーン凱旋となります。映画ファンにはおなじみの名前ですが、一般的にはそれほど有名な人ではないかもしれませんが、私はラッセル・マルケイの登板を知って胸が高鳴ったものです。この人は職人気質なところがあって、細かいショットを重ねたアクションシーンでも、きっちりとその流れを見せきってくれるんですね。この手の作品では、「やたらめったらとカットを割っているだけで何が起こっているのかよくわからない」という、ガチャガチャした映画がけっこうあるでしょう? そういった作品を見るたび、「これがラッセル・マルケイだったらなあ……」と思うことしばしば。ノリと勢いでごまかすということをしない人なんです。そういう人が久々に大作を手掛けました。それが本作なんです。ラッセル・マルケイ、健在でしたよ。嬉しくなってしまいました。そういった <観客第一の演出> も、存分に楽しんで下さい。

 是非、映画館の大画面&大音響で愉しんで頂きたい作品です。何も考えずに、ただただ全身で映画を味わう。ハラハラドキドキの94分で日頃のストレスを解消できるのですから、おすすめです。

 では、また劇場でお逢いしましょう!!

バイオハザードIII

 アリス、砂漠に死す

RESIDENT EVIL: EXTINCTION 2007 94分 [PG-12]
監督:ラッセル・マルケイ 脚本:ポール・W・S・アンダーソン 撮影:デヴィッド・ジョンソン クリーチャーデザイン:パトリック・タトポロス 視覚効果スーパーバイザー:デニス・ベラルディ/エヴァン・ジェイコブズ 編集:ニーヴン・ハウィー 音楽:チャーリー・クロウザー &#8195;出演:ミラ・ジョヴォヴィッチ/オデッド・フェール/アリ・ラーター/イアン・グレン/アシャンティ/クリストファー・イーガン/スペンサー・ロック/ジェイソン・オマラ/マイク・エップス

http://www.sonypictures.jp/movies/residentevilextinction/

11月3日より、
東京:日比谷スカラ座、TOHOシネマズ六本木ヒルズ他、
大阪:TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば他、
全国一斉ロードショー

2007年10月29日号掲載

< FUCK(2007/11/12) | 『朱霊たち』大阪公開告知・宣伝(後)(2007/10/8) >

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