FUCK

銀ナビ初の成人指定映画御紹介!

 いきなりですが、クイズです。

『スカーフェイス』で182回
『サウスパーク/無修正映画版』で227回
『ジェイ&サイレント・ボブ 帝国への逆襲』で228回
『パルプ・フィクション』で281回
使用されて話題となった英単語とは何?

 答えは“FUCK”。

“FUCK”。品のいい言葉ではありません。しかし、我々日本人にも広く浸透している言葉ですね。映画好きなら避けては通れない言葉です。様々な作品でこの言葉が登場しますものね。

 しかし、我々日本人が思う以上に、アメリカではこの言葉はタブー。“Fワード”“Fボム”なんていう隠語で表現されることも多く、人前では公にしない傾向が強いのです。はっきりと“FUCK”と口にしてしまうと、罰金&禁固刑……、なんてこともあるそうですから。嘘じゃありませんよ。乗っていたカヌーが転覆した青年が、岸に上がってきてこの言葉を口にしたことで75ドルの罰金 & 3日間の禁固刑に処せられという事例もあるのです。「クソっ!!」と言った程度の意味合いなのに、それで監獄にぶちこまれなくてはいけない。なんだか実感が湧きませんね。でもホントのことなんです。

 意味合いという言葉を出しましたけれど、“FUCK”という言葉の用途の広さには驚きます。本来は“性交”を示す言葉で、その語源は “fornicate under command of the king(王の命による姦淫)”の頭文字であるという説もあるそうです。しかし、現在では先述した「クソッ!!」「畜生っ!!」といった意味で使われもしますし、「超かっこいい」の「超」と同じ強調語として使われたりもします。名詞にもなれば、動詞にも、形容詞にもなり、100以上の用途があると言われます。一つの単語がこれほどの意味を持つのです。そんな単語、“FUCK”以外に存在しないのですね。この単語そのものが一つの文化を形成していると言えるでしょう。でも、一般的にはタブーワード。どうしてでしょうね?

 今回御紹介する映画は、その“FUCK”という言葉を徹底的に追及・検証したドキュメンタリー作品です。タイトルもズバリそのまま、『FUCK』。真面目な社会批評ドキュメンタリーでもありますし、抱腹絶倒のエンターテインメント映画でもあります。笑えて勉強にもなるという、稀有な作品ですよ、コレは。

 監督はスティーヴ・アンダーソンという人で、本作が日本初お目見えとなりますが、映画監督としてのデビュー作は劇映画。以来、劇映画とドキュメンタリーの双方で活躍している人です。彼が、ある時何気なく「“FUCK”に関する映画を作るべきだよ」というジョークを口にしたそうです。その瞬間「いや、これは本当に面白そうだぞ」と思い、本作が生まれたとのことです。テーマというのは、日常に転がっているものなのですね。それを拾えるか否か。そしてそれを実際に表現できるか否か。そこが重要なのです。その点、彼は才能に恵まれていたというわけですね。

 スティーヴ・アンダーソンは、明らかに“FUCK擁護・肯定派”ですが、本作は“FUCK抑制・否定派”の人々も多く登場します。このバランス感覚は非常に大切だし、このことが本作を有意義な作品にしています。闇雲に持論を強制し、観客を誘導するプロパガンダ映画ではなく、議論の映画に仕上がっているのです。また、本作のために収録されたインタビュー映像や、過去のアーカイヴ映像に登場する顔ぶれが実に豪華。その一部をちょっと御紹介してみましょう。

インタビュー部分
ハンター・S・トンプソン 『ラスベガスをやっつけろ』などで知られる作家。
ビリー・コノリー スタンダップ・コメディアン&俳優
ジャニーン・ガラファロ 俳優&コメディアン・ロン・ジェレミー:ポルノ男優。ポルノ映画出演最多ギネスブック記録保持者。
ジュディス・マーティン コラムニスト。“ミス・お作法”と呼ばれるアメリカン・マナーの権威
アラン・キーズ 保守派辛口政治家の代表格
アイス・T ラッパー&俳優。本物のギャングスター上がり。ヒップホップ界のご意見番的存在
パット・ブーン 歌手&俳優。敬虔なクリスチャンとして50〜60年代に大ブレイク。
チャック・D ラッパー。パブリック・エネミーの創立者
アラニス・モリセット 歌手。2004年、アメリカの放送規制に猛抗議。
ビル・メイハー コメディアン。9.11直後、司会するTV番組で米軍批判を展開
ケヴィン・スミス 映画監督。『ドグマ』が上映禁止運動に巻き込まれた。
ジャン・ラルー アメリカ憂国婦人会最高顧問。

アーカイヴ映像部分
 
ジョージ・W・ブッシュ 現アメリカ合衆国大統領
レニー・ブルース スタンダップ・コメディアン。“FUCK”の使用により二度の有罪に。
ジョージ・カーリン スタンダップ・コメディアン。“FUCK”連発ステージが話題に。
U2 人気バンド。ゴールデン・グローブ賞受賞時に“FUCK”と発言。
ハワード・スターン ラジオDJ。全米一過激で下品。史上最高額の罰金を支払った人物。
リチャード・M・ニクソン 元アメリカ合衆国大統領。アメリカ史上最も口汚い大統領
ビル・クリントン 元アメリカ合衆国大統領。“FUCK”と野次られても、見事に切り返す

などなど。ね、凄いでしょう? この他にも言語学者や大学教授らが続々と登場します。多くの著名人が、熱っぽく私見を語る。そうさせるだけの力が“FUCK”という言葉にあるのだということがよくわかりますね。

 日本にも放送禁止用語というのは存在します。しかし、その実態はあくまで“自主規制”なんですね。けれど、“FUCK”を巡るアメリカの事情はちょっと違う。アメリカ合衆国憲法修正第1条で“言論の自由”は保障されているはずなのに、アメリカには“FUCK”を規制し、罰則まで課す組織が存在しているのです。

 FCC(Federal Communications Commission=米連邦通信委員会)なる機関がそれにあたります。合衆国憲法は、“議会は言論及び出版の自由を制限する法律を制定することはできない”と定めているため、議会は直接“FUCK”という言葉を規制することはできません。 そのため、議会は、FCCを外部機関として設立しました。規制・監督の権限をFCCに与える(外部委託)という形にしています。従って、議会は間接的に関与しているというのが表向きの形。政治のカラクリですね。現在、このFCCが“FUCK”を規制しています。FCCが法的権限を有しているのは、公共の電波放送に限ってですので、映画館で上映される作品と、衛星放送はその対象外となっています。ですから、本作が全米で劇場公開できるというわけです。ちなみに本作での“FUCK”使用回数は 800以上。仮に、本作がアメリカのキー局で放送された場合、2億8千万ドル以上の罰金を課せられることとなります。これでは、とてもTV放送できませんね。劇場用映画だからこそ作り得た作品であるわけです。

 一口に“言論の自由”と言いますが、“何でもあり”ではいけないと私は思います。かといって、力ずくで規制するのはもっといけません。それは検閲・弾圧でしかないからです。そんなものはファシズムです。民主主義国家である以上、そこには常に議論があるべきですよね。その議論における発言権こそが“言論の自由”“表現の自由”だと。けれど、“FUCK”を巡るアメリカの実情は、それを侵害して著しいものがあるのです。そんな中、本作が登場しました。これはとても有意義なことです。

 文学・映画・音楽・お笑いといった文化は、ハイカルチャー、サブカルチャーの枠を超えて、常に時代を引っ張りつつ、戦ってきました。“FUCK”という言葉を巡る事情もその例に漏れません。

 レニー・ブルースは、生前に9度の逮捕と2度の有罪を経験しましたが、その有罪は“FUCK”の使用によるものです。『レニー・ブルース』という映画でダスティン・ホフマンが演じたことでも知られるこの人物は、現代アメリカン・コメディの神様とも言える人物です。エディ・マーフィも、ロビン・ウイリアムズも、彼の存在なくしては生まれなかったであろうと言われています。その彼が逮捕時に言いました。

“俺は捕まっても構わない。けれど、言葉を刑務所に入れるな!”

 18世紀フランスの哲学者ヴォルテールはこう言いました。

“君の意見には反対だが、君の発言権は死守する”

 また、ボブ・ディランはこう言いました。

“LOVEだって四文字言葉じゃないか!”

どれも、歴史に残る名言ばかりです。心からの叫びですね。言葉を巡る戦いの記録。それが映画:『FUCK』なのです。そして、その戦いは現在進行形のもの。これを機会に、言葉について考えを巡らせるのも決して無駄なことではありません。それも、大いに笑い、楽しみながらのことですから苦になることもありませんね。そんな素敵な映画:『FUCK』は、現在、東京公開中。これから順次公開となりますからお見逃しなく。

 それではまた劇場でお逢いしましょう!!

P.S.
今回、御紹介したかった作品がもう1本ありました。公開開始から少し日数が経ってしまったので断念しましたが、豊川悦司主演のミステリー映画『犯人に告ぐ』が面白い!! 是非御覧頂きたい一作です。

FUCK

2005 90分 アメリカ R-18監督:スティーヴ・アンダーソン 製作:スティーヴ・アンダーソン 撮影:アンドル・フォンタネッレ 編集:ジェイン・ロデリックス 字幕監修:町山智浩 出演:アラニス・モリセット/チャック・D/アイス・T/ハンター・S・トンプソン/ケヴィン・スミス/ロン・ジェレミー/パット・ブーン/ジャニーン・ガロファロー/ビル・メイハー/ビリー・コノリー/ スティーヴン・ボチコー/ドリュー・ケリー/デヴィッド・ミルチ/レニー・ブルース/ジョージ・カーリン/ハワード・スターン/ジョージ・W・ブッシュ

http://f-movie.net/

東京:11月10日〜 シアターN渋谷にて公開中
大阪:11月17日〜 シネマート心斎橋&十三第七藝術劇場にて
名古屋:12月1日〜 名古屋シネマテークにて
京都:1月上旬〜  京都シネマにて
他、順次公開予定

2007年11月12日号掲載

< マリア(2007/11/26) | バイオハザードIII(2007/10/29) >

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