©2007 KIM Ki-duk Film. All rights reserved.
韓国映画界で独自の存在感を放ち続けているキム・ギドク監督最新作。彼のファンならば、迷わず劇場に駆けつけることだろう。今回もキム・ギドクらしさが炸裂している。
ある青年死刑囚と、青年の存在をニュースで知った主婦が織り成す異色のラブ・ストーリー。その際だった異色さが、実にキム・ギドクしていてファンにはたまらないものがある。理屈で説明しきれない人間の <情> が紡ぐドラマが、映画という表現手段によってスクリーンで躍る、躍る。
台湾人俳優のチャン・チェンがセリフのない青年死刑囚を熱演しており、彼のストイックなまでの演技は一見の価値あり。主婦役のチアが、面会室に春夏秋冬それぞれの壁紙を季節毎に貼り付け、その季節にちなんだ歌を歌う。季節の変化が乏しい塀の中に人工的な四季を持ち込むというわけだが、そこに溢れるチアの感情が胸に迫って秀逸。
チアの歌唱がヘタクソなところが、本作の肝であり、リアリティでもあろう。キム・ギドク監督自ら <あるキャラクター> を演じているが、虚構と現実の境界を崩すメタ的存在として存在しており、また面白い。
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3月。『呉清源 極みの棋譜』で大阪 シネマ・フェスティバル主演男優賞を授賞した台湾のイケメン俳優チャン・チェンさんが急遽来阪されました。これはまさに電撃的な来日で、関係者もてんやわんや。そんな中、最新作『ブレス』の合同記者会見が開かれましたので、その模様をお伝えします。今回、東京へはいらっしゃらないということで、貴重なインタビューとなりました。
―――キム・ギドク監督とは初顔合わせですね?
C・C そうです。実は以前に一緒に仕事をしましょうということで、脚本 をいただいた事があったのですが、その時はスケジュールがどうしても合わずに実現しませんでした。その作品は中国・台湾・韓国と、アジア全域に跨るものでしたが、現在まだ映画化されていません。ですので、今回が初の共同作業でしたが、送っていただいた脚本としては2本目になります。
―――キム・ギドク監督との映画作りはいかがでしたか?
C・C キム・ギドク監督には、これまでに発表された作品のイメージから <凶暴な人> というイメージを抱いていたのですが、実際はとても優しい方でした。『ブレス』は一月のソウルで撮影したためとても寒かったのですが、彼はカットをかけるやいなや、私の方に駆け寄って下さって足をさすって暖めてくれたんですよ。
―――今回演じられたのは、チャン・ジンという青年死刑囚ですが、これはチャン・チェンさんの氏名を韓国語読みしたものだそうですね?
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C・C 作中では囚人番号で呼ばれていますからお気になさらず(笑)
―――『ブレス』出演にあたってはどのような役作りを?
C・C 『ブレス』の場合、登場人物が非常に抑圧されていると感じました。その中で、キム・ギドク監督独自の恣意的で抽象的な描写の意図を掴んでどう表現しようかと考えました。知人に心理学に詳しい医師を紹介してもらって役作りをしましたよ。刑務所内に置かれた囚人役、それも死刑囚の役ですから、その心理状態がどういうものかを研究しました。それにしても、セリフがないというのは難しいですね。難度が上がります。言葉がない中での演技です。そこで、タイトルにもなっている『ブレス』について考えました。『呼吸』ですね。<吸うことがあって、吐く。その逆も然り> なんです。これは <表裏一体> ですね。そのことを常に意識していました。
―――妻子を殺害した死刑囚役ということでしたが、どういった解釈で臨まれましたか?
C・C 殺害動機に関しては観客の皆さんに委ねたいと思っています。演じるにあたっては、自分なりの設定をしました。恐らく彼は田舎暮らしで、知識はたくさん有しているけれども、ブルーワーカーだと考えました。自らが望む理想の暮らしと現実のギャップに苦しんでいると解釈しました。
―――チャン・チェンさん御自身は『ブレス』をどう捉えていらっしゃいますか?
C・C ストーリー良し、脚本良し、役柄良し。そしてもちろん演出も素晴らしいものでした。おまけにヒロインも素晴らしかったですよね(笑)ここ数年での目覚しい韓国の発展を学びました。
―――チャン・チェンさんは、故エドワード・ヤン(ヤン・ドゥーチャン)監督に見出されて映画界に入ったわけです。昨年亡くなられてしまったわけですが、エドワード・ヤン監督はどういった方でしたか?
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C・C 私は10代で映画界に入ったのですが、それは父(俳優のチャン・クオチュー)の存在があってこそと言えます。そして、父によってもたらされたエドワード・ヤン監督との出会いは、私の人生を大きく変えてくれる素晴らしいものとなりました。とはいっても、私はまだ幼かったので、撮影現場で走り回ったりしていて、その度に叱られていたのを覚えています。「恐い人…」という印象でしたが、今では映画への道を切り拓いてくれた啓蒙の師として感謝しています。
―――以降、台湾に留まらずアジア各国の才能豊かな監督の作品に出演され続けていらっしゃいますね。
C・C 決して選り好みしたわけじゃないですよ。これは全くの偶然で、私はとても幸運というものに恵まれていると感じています。
―――本当に目を見張るような映画監督ばかりとお仕事されていますが、監督によって映画作りや現場の雰囲気は違ってくるものでしょうか?
C・C:もちろんです。ただ『百年恋歌』のホウ・シャオシェン監督と『呉清源 極みの棋譜』のティエン・チュアンチュアン監督はとても似ているという印象です。一方、キム・ギドク監督は全く違いますね。
―――日本映画は御覧になっていますか?
C・C ええ。映画館ではなくDVDで見ることが多いですが。
―――チャン・チェンさんは昨年『遠くの空に消えた』(行定勲監督)で日本映画に出演されていますが、これから日本の俳優で共演してみたい方はいらっしゃいますか?
C・C 加瀬亮さん、オダギリ・ジョーさん、浅野忠信さんですね。浅野忠信さんとは、ホウ・シャオシェン監督の新作で共演できるかと思います。あと、ジョン・ウー監督の三国志映画『レッド・クリフ』で中村獅童さんと一緒に出演しています。共演シーンはありませんでしたが、現場ではよくお会いしましたよ。
チャン・チェンさんは、文化や言語の壁を超えて映画出演を続けていらっしゃいます。現時点で日本未公開の作品では『Blood Brothers/天同口』が上海を舞台にしたノワール・アクション、『SILK』では日本の江口洋介さんと共演。アジア全域での活躍をされているわけです。異なる文化・言語のスタッフ・キャストが一丸となって一つの作品を作り上げている。そういった部分を含めて、チャン・チェンさんにとって映画作りの魅力とはなんですか?
C・C まず、色々なところに行けるというメリットがありますね。旅行と勉強を一度に出来ます。これは素晴らしいことです。スタッフ・キャストとの関係については、確かに文化・言語の違いというのはありますが、心理的には <家族> という感じがしますね。これは映画作りならではの関係です。色々な違いを超えて、多くの人々が一つの作品作りに臨むのです。その一員になれることの喜びと言ったらたまらないものがありますよ。あと、最近、俳優として <演じることの愉しさ> というのが湧いてきました。これからはもっと幅広い役柄を演じてみたいです。
―――最後に一言メッセージをお願いします。
C・C 私の夢は「良い映画に出ること」。ただそれだけです。様々な文化を吸収しながら、良い映画にたくさん出たいですね。私は <映画人> ですから。
「私は <映画人> ですから」と胸を張って宣言したこのチャン・チェンさんの瞳は、キラキラと輝いていました。大人の俳優に向かって、着実にステップ・アップしていると強く感じたものです。これからも出演作が目白押しの彼から目が離せません。
【チャン・チェン プロフィール】張震。1976年10月14日台湾・台北生まれ。ベテラン俳優チャン・クオチュー(張国柱)の次男。1991年、エドワード・ヤン監督(楊徳昌)監督の『[牛古]嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』で銀幕デビューを飾るが、学業に専念するため、しばらく俳優業を休業。1996年、同じエドワード・ヤン監督の『カップルズ』で活動を再開。翌年のウォン・カーウァイ(王家衛)監督作品『ブエノスアイレス』で世界的な注目を浴びるが、直後、兵役のため二度目の俳優業休業。復帰後、2000年の『グリーン・ディスティニー』が世界中で大ヒット。以降、アジア全域を股にかけて活躍中。その後の代表作に『愛の神、エロス』『百年恋歌』『遠くの空に消えた』など。2007年に日本公開された『呉清源 極みの棋譜』で、2008年度おおさか シネマ・フェスティバル主演男優賞を授賞。最新作はジョン・ウー監督による三国志大作『レッド・クリフ』。呉の君主である孫権という大役を射止めている。今冬日本公開予定。
ブレス(R-15指定作品) http://www.cinemart.co.jp/breath/
5/3〜 東京:ユーロスペースにて公開中