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アルツハイマー性認知症によって愛の揺らぎに直面する夫婦の物語。この疾患を扱った映画作品だと、英国ベテラン俳優共演の『アイリス』、韓流ブームも手伝って大ヒットした『私の頭の中の消しゴム』、ハリウッド若手俳優主演の『君に読む物語』などが記憶に新しい。日本でも、ミステリーを絡めた『半落ち』や、渡辺謙の熱演が大絶賛された『明日の記憶』が大ヒットを記録した。
2000年代に入った途端、にわかに映画界でアルツハイマー性認知症がクローズアップされてきた感があるが、そこには <明日は我が身> という、我々が抱く切迫感が大きく作用しているはずだ。決して他人事ではない病として認知されてきたためであろう。ここにまた、新たな名作が加わることとなった。アルツハイマー性認知症に向き合う初老の夫婦の姿を通して、その愛の揺らぎと苦しみを真っ向から描いたカナダ映画『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』である。
死によってではなく、生きながらにして愛が分かたれるというのは、紛れも無い恐怖だ。その愛が深ければ深いほど、痛みも大きい。何たる悲劇! 何たる理不尽!!
記憶を失っていく妻を、英国の名女優ジュリー・クリスティが全身全霊を捧げて演じ、圧巻。彼女の乱れ髪・ほつれ髪が、来る悲劇の予兆として示されるという演出に舌を巻きつつ、文字通り、毛先にまで神経を張り詰めさせた演技力に驚嘆させられた。
そんな妻を懸命に支えようとする夫に、カナダの名優ゴードン・ビンセント。本作の鍵を握る重要な女性を、実力派のオリンピア・デュカキス。この2人の力演も是非御覧頂きたい。
監督は女優のサラ・ポーリー。本作が初の長編&弱冠29歳の若さという事実に、心の底から驚いた。安易にキレイゴトでまとめない人間観察眼が、素晴らしい作品を生み出した。今回、最もおすすめする名編。
アウェイ・フロム・ハー 君を想う http://www.kimiomo.com/
5/31〜 東京:銀座テアトルシネマ