銀幕ナビゲーション-喜多匡希

休 暇

休暇 <死> を通して
<生> を見つめる前向きな秀作!休暇 あとで読む

休暇
©2007「休暇」製作委員会

 日本の死刑が絞首刑であることは皆さんも御存知のはず。では、死刑台床が開いたその下に、<支え役> と呼ばれる係が2人いることも御存知だろうか? 不勉強にして私は知らなかった。

<支え役> の仕事は、文字通り死刑囚の体を支えることである。落下してきた死刑囚の体にしがみつき、支える。死刑囚と一口に言っても、死刑執行が完遂されるまでの時間や執行中に見せる体の反応は様々であり、人によって異なる。短い時間で死亡する者もいれば、長い時間を要する者もいる。激しく痙攣する者や、失禁を伴なう者もいる。

 想像するだけで、大変な役目だと感じた。事実、刑務官が携わる仕事の中でも、誰もやりたがらない役目であるという。死刑執行に立ち会う係は複数あり、執行後に2日間の特別休暇が与えられるという。しかし、支え役だけはこの特別休暇が1週間与えられる。それだけ肉体的にも精神的にもきつい役目であるということだろう。その証拠に、支え役は事前に志願者を募るが、大抵、志願する者はなく、最終的に指名によってその任を命じられるとのことである。

休暇
©2007「休暇」製作委員会
丘を越えて

 本作は吉村昭による同名短編小説を原作とし、主人公の刑務官・平井を小林薫が、死刑囚・金田を西島秀俊が演じている。金田の死刑執行に際して、支え役の1人となるのが平井というわけだ。平井は、支え役になることを志願する。1週間の休暇のためである。

 ここで、「人の死を手伝ってまで休みが欲しいのか!!」と、気分を害される方もいらっしゃるだろう。しかし、平井にはどうしてもこの休暇が必要なのだ。

 平井は実直勤勉な好人物だ。ただ、結婚に縁がないまま中年を迎えてしまった。そんな平井が、子連れの未亡人・美香と結婚することになる。しかし、美香の連れ子である達哉と打ち解けることがどうしてもできない。挙式の後、新婚旅行でもと想ったが、あいにく、母の死に際して有給休暇を使い果たしてしまっていた。このままでは、自分も美香も達哉も、ダメになってしまう。幸せになることも、幸せにしてやることもできない。しかし、その休暇は <人の死と引き換えにして得る休暇> だ。平井は悩む。実直であるからこそ、悩む。悩んで悩んで、悩みぬいてから志願し、旅行に出てからも、手に残った金田の死の感触を思い出して悩む。

 その苦しみの先に平井が得るものが、観客を納得させる。ここで、金田の体を、まるでしがみつくようにして支えていた平井の姿が思い出される。この時、平井は金田の <死> を支え、同時に自身と美香、そして達哉も支えていたのだ。

丘を越えて 休暇
©2007「休暇」製作委員会

 しかし、そのことが理解できても、尚、心の中にはどこか抵抗感が残る。やはり、 <他人の死を踏み台にした幸福> だという思いが根強い。しかし、本作は、終盤でその抵抗感をも拭い去ってくれた。ここで、平井は、ある人物の体を優しく、そして力強く支えるのだ。その人物が誰であるかは、是非、御自分の目で確かめていただきたい。

 監督は門井肇。本作は、長編デビュー作の『棚の隅』(傑作!!)に続く2作目となる。まだ30代半ばという若さだが、さりげない描写で豊かな人間ドラマを紡ぎ出す。素晴らしい才能の持ち主である。

 小林薫、西島秀俊はもちろんのこと、大杉漣、菅田俊、大塚寧々、柏原収治、今宿麻美ら、助演陣もこぞって名演。

休暇 http://www.eigakyuka.com/

日本 115分 配給:リトルバード
監督:門井肇
出演:小林薫、西島秀俊、大塚寧々、大杉漣、柏原収治、菅田俊、利重鋼、今宿麻美、滝沢涼子、谷本一、宇都秀星、 榊英雄、りりィ、ほか

【上映スケジュール】
6/7〜
東京:有楽町スバル座、お台場シネマメディアージュほか
大阪:敷島シネポップ、第七藝術劇場
京都:TOHOシネマズ二条
兵庫:三宮シネフェニックス
ほか、全国一斉公開中

2008年6月9日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク

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