昨今、日本映画界で大流行の <ユル〜いコメディ映画> である。この <ユルさ> という要素を笑いに取り入れた作品群は、特に90年代後半の日本映画で一つの大きなムーヴメントとなっている感がある。最近だと三木聡監督の『図鑑に載ってない虫』や『転々』のヒットが記憶に新しい。荒川良々主演作『全然大丈夫』も忘れられない。公開待機作では、鮎川誠と堺雅人共演という、もうそれだけでワクワクしてしまう『ジャージの二人』なんていう快作も。今回御紹介する『純喫茶磯辺』もそんな一本。『机のなかみ』で注目を集めた新進映画監督の吉田恵輔が、本作でヒットメーカーへの階段をまた一段、その高みへと歩を進めて見せたように思う。
© 2008『純喫茶磯辺』製作委員会 |
これは快作。小品だが、大いに笑わせながら、ちょっぴりホロリともさせてくれる和製人情喜劇として、おすすめしたい。
妻と別れて、今は高校生の娘と二人暮らしの中年メタボおやじが、父の死によって思わぬ遺産が転がり込み、それを契機に仕事を止めて事業を起こす。その事業とは喫茶店経営。なぜ、喫茶店なのか? 「女の子にモテたい!」から。その一心のみである…… しかし、やることなすことピントもセンスもずれきったこのグウタラおやじ。あらゆる突込みどころに満ちた店をオープンしてしまう。『純喫茶磯辺』。店の名前からして、もうドツボにはまっているのだが、このおやじは自信満々。一人気を揉む一人娘は、この店で半ば無理矢理にアルバイトをさせられる羽目になるのだが…… というストーリーがもうすでに笑える。が、こういった笑いが巷に氾濫しているのもまた事実で、最早そのプロットだけで楽しめる時代は過ぎ去ったと言って良い。吉田恵輔監督の力量は大いに認めるところだが、知名度・興行力の部分ではまだまだ厳しいというのが実情。
しかし、本作には充分にウリとなるポイントがある。キャスティングの妙と、その意表を突くほどの上手さだ。
主演は人気お笑いコンビ・雨上がり決死隊の宮迫博之。本人は「俳優は本業じゃない。僕はお笑い芸人ですから、演技にプレッシャーもないし」と謙遜するが、『蛇イチゴ』で見せた絶妙な演技派振りと、『下妻物語』で見せた抱腹絶倒のコメディ・リリーフ振りの併せ技を本作で披露。台詞の端々や目線の送り方、表情など、至るところで観客を笑わせにかかり、それが百発百中という驚天動地の的中率を見せる。
加えて、少し影とクセのあるアルバイト店員役で新境地を開拓する麻生久美子が、一見して彼女とはわからないカメレオンのような上手さでキラリと光る。
この芸達者な2人に、娘役の仲里依紗が清楚な魅力を振りまいてしっかり対抗。かくして、互いの持ち味を損なわない絶妙なトライアングルが完成を見た。これでもう安心。観客はただただスクリーンを見つめて、大いに笑い、時に涙し、時にハラハラすれば良いのだ。遊園地のアトラクションを楽しむような気持ちで、身を任せて楽しんで♪
純喫茶磯辺 http://www.isobe-movie.com/
2008 年 日本 113 分 配給:ムービーアイ・エンタテインメント
監督:吉田恵輔
出演:宮迫博之、仲里依紗、濱田マリ、近藤春菜、ダンカン、和田聰宏、ミッキー・カーチス
斎藤洋介、麻生久美子、ほか
【上映スケジュール】
7/5 (土) 〜 東京:テアトル新宿、渋谷シネ・アミューズ、立川シネマシティ、 MOVIX 昭島
7/12 (土)〜 大阪:テアトル梅田、シネマート心斎橋
7/12 (土)〜 兵庫:シネカノン神戸
7/ 下旬予定 京都:京都シネマ
そのほか、全国同日 or 順次公開予定