1988年に『となりのトトロ』と二本立てで公開された長編アニメーション映画『火垂るの墓』は、<泣ける戦争映画> として名作の誉れが高い。公開当時、一家総出で映画館に出向いたのを覚えているから、そこには、両親の「子どもに見せたい」という、一種の教育的意図が働いていたと思える。筆者と妹にとっては、『となりのトトロ』こそがメインという思いがあり、作り手の方々には大変失礼だが『火垂るの墓』には <添え物> というイメージがあったものだ。しかし、鑑賞中から滂沱の涙。結果、この二本立ては両A面と言える充実したものとして記憶している。その素晴らしさを証明するように、両作品はビデオ・DVD市場においてもロングセラーとなり、TVでも度々放映され、新しいファンを獲得し続けている。
© 2008「火垂るの墓」パートナーズ |
あれから20年経った。公開当時、親に連れられて観に行った世代が、今や親の世代に成長している。そんな中、『火垂るの墓』は2005年にTVドラマ化もされた。そして今、また新たに実写映画化。
正直に言って、当初、この実写映画化に筆者は懐疑的であった。すこぶる評価の高い名作が既に存在するというのに、なぜ、今、わざわざ再映画化する必要があるのだろうか? アニメーションと実写という違いこそあれ、到底必要な作業とは思えない。しかし、結果を先に言ってしまえば、これはまったくもって筆者の不明によるキメツケ(偏見)に他ならなかったのである。
本作は、2006年に亡くなった黒木和雄監督が映画化を準備していた企画だという。その遺志を継いで、長く黒木組の助監督を務めた日向寺太郎監督(『誰がために』で監督デビュー。本作が2作目の劇場用長編映画監督作品となる)がメガホンを取った。脚本はベテランの西岡琢也が執筆。美術監修を日本映画美術界の重鎮・木村威夫が務めるなど、スタッフには黒木組を支えた大ベテランの顔も多く見られる。しかし、日向寺監督は当初、この話を一度断ったのだという。理由は先述したあまりにも巨大なアニメーション映画版の存在。そして、「戦争を知らない世代が、果たして手を出して良いのだろうか?」という危惧であったという。この姿勢は、真摯そのもの。当然ぶち当たる障壁でもあると思えるが、果たしてその壁と実際に向き合う気概のある真摯さを、どれだけの新進監督が有しているであろうか? アニメーション版の巨大さや、予想され旧作ファンからのバッシングに怖気づくか、職人として(または一種の野心を持って)メガホンを取るかのどちらかに流れることが大半ではないだろうか? しかし、日向寺監督はここで懊悩した。ここに観られる一人の作家としての心をこそ称えたい。
©2008「火垂るの墓」パートナーズ |
ここで、木村威夫が日向寺監督の背中を押したという。
再現しなくていいんだ。表現するんだ。
かくして、ここに、まったく新しい『火垂るの墓』が生まれた。
アニメーション版からも、時には原作の骨格さえも越えた脚色には賛否両論あるだろうが、本作にも作り手の真摯な眼差しが宿っており、それゆえに <心>
がこもった。その <心> の部分に、日向寺監督の現代人=戦争を知らない世代として受け取ったバトンを、観客に繋げようという願いが見られる。その願いを形にしたものが、本作であり、それはやはり再現ではなく、表現である。真に伝えるべきは、形ではなく、心であるということを本作は教えてくれるだろう。
火垂るの墓 http://www.hotarunohaka.jp/
2008 年 日本 100 分 配給:パル企画
監督:日向寺太郎
出演:吉武怜朗、畠山彩奈、松坂慶子、松田聖子、山中聡、池脇千鶴、原田芳雄、長門裕之、ほか
【上映スケジュール】
7/5 〜(土) 東京:岩波ホール
8/2 〜(土) 大阪:梅田ピカデリー、布施ラインシネマなんばパークスシネマ、 MOVIX 堺
8/2 〜(土) 京都: MOVIX 京都
8/2 〜(土) 兵庫:神戸国際松竹、ワーナー・マイカル・シネマズ加古川(別途上映会あり。 HP 確認下さい)
そのほか、全国順次公開予定