闇の子供たち

日本・タイの映画人が手を結んだ
渾身の問題提起　

© 2008 映画「闇の子供たち」製作委員会

　本年度屈指の力作である。

© 2008 映画「闇の子供たち」製作委員会

　タイで行われているという幼児売春と臓器密売という闇を抉り出した梁石日（ヤン・ソギル）の同名小説を、骨太な演出が持ち味の阪本順治監督がタイ・日本の両国を股に掛けたロケを敢行して映画化しているが、一口に映画化という言葉で済ませるわけにはいかない重みが全編に漲っている。まるで、匕首（あいくち）を首元に突きつけられたかのような衝撃を感じたものだが、そこには奇を衒った印象は微塵も無く、ただただ映画という表現で現実を直視し、観客に伝え、訴えようという魂の告発がある。その告発を目の当たりにして、心の底から震撼した。

　本作には、阪本順治の懊悩する姿と、そこから生じた心の痛みが垣間見える。自身の企画ではなく、プロデューサーから打診された企画を引き受けたという背景には彼の職人監督としての側面が伺え、その後、この企画に真っ向から向き合うという過程に見られるその姿には彼の映画作家としての側面が伺える。その職人性と作家性が渾然一体となって刻印されている本作は、社会派作品でありながら、同時にエンターテインメント作品でもあるという、商業映画としてのバランスの上でやや不安定な綱渡りを見せるが、時にバランスを崩しそうになるその危うさにこそ、阪本順治の本作に対する真摯な姿勢が表れているのだ。

© 2008 映画「闇の子供たち」製作委員会

　思わず目を背けたくなる非人道的な子供たちの姿に、心が痛む。だからこそ、目を背けてはならないという決意が観る者の心に芽生えるのだ。これを求心力という。ここで去来する痛みが、胸を締め付けて苦しい。大人たちの性の道具にされ、金銭と引き換えに虐げられる少年・少女たち。どれだけの客を相手にしても、彼ら自身が富むことはない。その利益を搾取するのは売春施設の元締めたる大人たちであり、幼子たちは専らその生贄として、隷属的な奉仕を強要される。彼らは徹底して <商品> としてのみ生かされているのだ。大人たちの性欲を満たすために買われ、その異様な欲求の餌食になる幼き肉体と精神。理不尽で無茶な行為によって、その <商品> を壊してしまった代償として、白人男性が財布からクレジット・カードを取り出すシーンのおぞましさに吐き気すら感じた。

 

© 2008 映画「闇の子供たち」製作委員会

<子供> という言葉は、 <子を供える> と書くため、日本ではその語句の使用を避け、 <子ども> と表記しようという動きが出ている。しかし、本作で描かれるタイの少年・少女たちの存在は、紛れも無く <子供> である。大人たちの身勝手な欲望を満たすための性奴隷にされ、富める国の子どもの命のために生きながらにして臓器を摘出される。そこにはモラルなど微塵も存在しない。大人たちのエゴイズムの犠牲としてひたすら <供される> だけの存在である。そういった中で、エイズを発症したなら直ちに <ゴミ> として廃棄される。こういった一連の描写に溢れるドキュメンタリズムが、作品全体にベットリとした生温かい湿り気を与えている。その湿り気が誘発する生理的嫌悪感に激しく気分を害されるのだが、やはりそこから目を逸らすことができない。これこそ本作が力作たる証左であろう。

　本作で描かれる大人たちの醜さは、タイの恥部ではない。タイという国を舞台に行われている世界の恥部である。

　ラストで明かされる主人公の闇が些か説明的に過ぎると感じ、そこに言い知れない抵抗を感じたものだが、多くの者たちが避けるであろうテーマに真っ向から挑んだスタッフ・キャストの勇気には心から敬服するものである。必見！

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