アクロス・ザ・ユニバース

全編をビートルズの楽曲が彩る
ミュージカル映画の意欲的快作！　

© 2007Revolution Studios Distribution Company, LLC.　
All Rights Reserved.

　女性監督ジュリー・テイモアによるビートルズ・ナンバーに彩られた青春ミュージカル映画。1960年代末期の世相を史実に基づいて再現し、独自のめくるめく映像美を展開しながら、誰もが一度は耳にしたことがあるであろう33曲に及ぶビートルズ・ナンバーを散りばめている。

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　ジュリー・テイモアは紛う事なき才女だ。最近ではブロードウェイ・ミュージカル『ライオン・キング』の演出を手掛け、大絶賛を博した。ここで、彼女は日本の文楽や人形浄瑠璃、中国の人形劇など、アジアの伝統芸能を取り入れるという、従来の欧米文化にはない新しい息吹を吹き込んでいる。斬新な発想であるが、この斬新さは何もこの舞台で突如花開いたものではない。1952年生まれのジュリー・テイモアは、10代の頃からスリランカ、インド、フランスなどで各国の芸能文化を学んで来たという。1970年代初頭には日本に滞在し、歌舞伎や人形浄瑠璃などを研究したとか。以来、演劇やオペラなどといった舞台を中心に演出家として活躍している。彼女の手掛けた映像作品で、初めて日本で劇場公開されたのはエドガー・アラン・ポーの小説『跳び蛙』をTV映画化した中篇『フールズ・ファイア』(1992）。以降、初の長編劇場用映画監督作にウィリアム・シェイクスピアの『タイタス・アンドロニカス』に現代感覚を大胆に盛り込んで脚色した『タイタス』(1999）、メキシコの天才女流画家フリーダ・カーロの伝記映画『フリーダ』(2002）と作を重ねている。彼女の作品に共通するのは、奇抜とも言える画作りで、いずれの作品にも、舞台で培ったテイモア流美学が炸裂している。加えて、これまでの映像作品はどれも時代色を帯びた背景の中で煌く美術と音楽が印象的であった。時にゴシック的な毒々しさを、時に現代的な時代性の混交を感じさせ、他の誰にも真似できないオンリーワンの映像感覚を繰り広げてきたものだ。

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　その独自性は、これまでにジュリー・テイモアが手掛けてきた作品の中でも最も現在に近い時代背景を有する本作においても存分に展開されている。1960年代後半〜1970年代前半と言えば、世界中で革命運動が盛り上がりを見せていた時代。中国の文化大革命やフランスの五月革命に呼応するように、我が国でも学生を中心に革命を標榜した運動が展開された。アメリカやイギリスも例外ではない。特に、アメリカにおいては、長引くベトナム戦争に対する反対集会からラブ＆ピースが叫ばれ、ドラッグ・カルチャーに代表されるヒッピー文化が隆盛を迎えた。世界的に激動の時代であったこの時代にイギリスで結成され、瞬く間に世界的人気を勝ち取ったのがビートルズである。この不世出の天才グループが世界中に与えた影響は計り知れないものがあり、彼らは音楽（歌）によって確実に世相に一撃を喰らわせたと言えよう。

　そんなビートルズの楽曲のみを使用した本作は、リヴァプール生まれのジュードという青年が主人公。これだけでビートルズ・ファンはニンマリだが、デトロイト暴動やキング牧師暗殺、コロンビア大学封鎖など、実際の出来事を散りばめ、その中でジャニス・ジョップリンやジミ・ヘンドリックスを連想させる人物が登場するのもたまらない。そして、史実を基にしたプロットの中で炸裂するテイモア流映像世界にすっかり魅せられた。

　クライマックスの屋上ライブも史実を基にしているが、ここで物語は実に清々しいラブストーリーとして着地する。ここに見られる愛の普遍性が素晴らしい。これを、ビートルズとシェイクスピア劇（『ロミオとジュリエット』）の邂逅と見るのもあながち間違いではないだろう。ジュリー・テイモア会心の１作である。

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